「ケインズとハイエク」松原 隆一郎著…日経新聞1月22日20面より

両巨人の知の遺産への手引き
金融市場を自由化するほど経済はうまくいく。米国を旗頭にしたそんな楽観論は大きく揺らぎ、市場本位の新古典派は矢面に立たされている。ならばハイエクはというと、過剰な銀行貸し出しには規制を設けなければならない、との立場をとっていた。
バブルの発生と崩壊には貨幣がいたずらを演じる。貯蓄と投資が一致する利子の水準は自然利子率と呼ばれる。ところが現実の世界に存在するのは、貯蓄や投資以外の思惑が加わった市場利子率である。市場利子率が自然利子率を下回る状態が続けば、景気は過熱しバブルとなる。
人々が貨幣を握りしめて手放さないと、不況になる。反対に、金離れがよくなり過ぎればバブルとなる。人々の期待が貨幣をめぐる行動に反映され、景気変動を増幅させる。ケインズとハイエクの認識は驚くほど近い。
主張が世に広まる過程で過度に単純化された点でも、2人は共通している。政府による不況克服を唱えたケインズと市場一本やりのハイエク。20世紀の経済学の両巨人を、そんなふうに要約して済ませられた時代はよかった。
現実の貨幣や市場、そして人々の期待や不確実性といった要素は、簡単な要約を許さない。今の我々はその矛盾に直面する。ケインズもハイエクも難題を考え抜き、知の遺産を残した。本書はその森に分け入る際の手引きである。(講談社現代新書・840円) 
  

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