男から涙奪った帝国主義…朝日新聞1月24日11面より
ロジャー・パルバースさん 作家、東京工業大世界文明センター長
44年米国生まれ。日本に長く暮らし、宮沢賢治の英訳で知られる。著書に「ウラシマ・タロウの死」「もし、日本という国がなかったら」など。
文中黒字化は芥川。
いまでも外国では、日本人は感情を表に出さない、泣かないと思われています。サムライ精神、辛抱、我慢というステレオタイプな見方が残っている。
1967年に初めて日本に来ましたが、サムライ精神とは正反対の、日本文化のウエットさに取りつかれました。大好きな浪花節にも男泣きはよく出てくる。文学でも、太宰治も石川啄木も正岡子規も泣き虫です。
「男はつらいよ」の寅さんも毎回のように涙ぐむじゃないですか。日本人、特に庶民は、よく泣く男が好きだったんです。
一番印象が強いのは宮沢賢治の涙です。「雨ニモマケズ」の「ヒデリノトキハナミダヲナガシ」という言葉はすごい。相手の不幸にただ同情するのではなく、その悲しみを自分のものとして泣く。日照りの時は水がないから、自分の体から涙という水を絞り出す。自己犠牲の精神が賢治の涙には含まれている。
僕も、昨年の10月に、震災で壊滅的な被害を受けた岩手県の陸前高田市に行った時は言葉が出ませんでした。ただ泣くしかなかった。あの光景を見て、泣かないほうが不思議です。
…後略。