復興始動 閉塞感破る企業の息吹③…日経新聞1月25日1面より
…前章からの続き。
1口1万円募る
政府の復興予算は、こうした被災地の起業家たちにまだ届いていない。宮城県石巻市雄勝町でホヤの養殖を営んでいた伊藤浩光(50)は昨年8月、仲間の漁師ら12人で合同会社を立ち上げた。社名は「OHガッツ」。雄勝とガッツの組み合わせだ。
インターネットを使って全国から1口1万円でオーナーを募り、カキやホタテの養殖施設を再建する。収穫物はオーナーに還元。漁協を通さず消費者と直接結びつく流通の仕組みを作り、利益率を高める。既に約2000万円を集めた。「何もかも失った今だからこそ、新しい形の漁業を目指せる」(伊藤)
「融資はできません」。津波で野菜畑を流された仙台市の瀬戸誠一(62)はJAに融資を断られた。国や自治体の支援策も見えず、あきらめかけた瀬戸を救ったのは、市民の小口資金で設立された被災地応援ファンドだった。
「どうせやるなら新しいことを」(瀬戸)。地元の仲間と3人で株式会社を作り、ルッコラやレタスの水耕栽培に挑戦する。目標は年商3億円。4月にも最初の出荷が始まる。
こうした「震災後企業」が根を張って、小さくても持続的な雇用が生まれていく。一人ひとりがリスクを負って「やればできる」ことを体感し、その積み重ねが日本経済の閉塞感に風穴を開けていく。
そんな起業の息吹を18兆円の復興費が後押しすれば、東北から日本が変わり始める。(敬称略)
山腰克也、村松洋兵、相模真記、亀井勝司、川上尚志、松尾洋平が担当しました。