国内の空洞化…朝日新聞1月29日6面より

編集委員 安井 孝之  文中黒字化は私。
組み立てラインに立つ作業員らの仕事はそれぞれ違い、臨機応変に作業が進んでいるように見えた。細かな電子回路、部品が一点一点微妙に違う。
作業員が単純作業を繰り返す大量生産のイメージとは異なる。
富士通の子会社で石川県かほく市の富士通ITプロダクツは世界最高速のスーパーコンピューターやサーバーをつくる主力工場。冬の荒れた日本海が近くに見える工場で地元出身の社員700人余りが働く。
昨年11月に2期連続で世界最高速と認定されたスパコン「京」をつくった。今は同じラインで東京大学向けのスパコンがつくられていた。
国内のものづくりが最近の円高や電力不足で空洞化するのではないかという懸念が高まるが、富士通ITプロダクツに海外移転の考えはない。
スパコン、サーバーといった高機能のコンピューターの生産の場合、顧客ごとに仕様が違い、多品種少量生産となる。生産量の変動も大きく、生産ラインを柔軟に変える必要がある。
菅野敏彦社長は「柔軟な生産システムには作業員の多能工化か不可欠。いろいろな作業ができるように習熟度を高めるには、長く勤めてくれる国内工場がふさわしい」と話す。高品質で多品種少量の製品は、国内でのものづくりの強みが発揮できるといえる。

一方、パソコンなど海外生産が主流となっている製品はどうか。
富士通はパソコンでも国内生産にこだわり、国内販売のうち低価格品を除く9割が国内生産だ。富士通の生産担当の酒井雄一執行役員は「高品質の製品をつくるには開発と製造とのすり合わせが必要。開発部門に近い国内生産が競争力を生む」と指摘する。また、物流コストを含めれば海外生産とのコスト競争力は同等だといい、組み立てロボットをさらに投入すれば今後も国内生産は競争力が保てるという。
国内生産のこだわりは在庫管理にも役立つ。日曜日までの売り上げ状況を見て、月曜日に工場に発注、木曜日には量販店の店頭に新しい商品が届く・店頭での在庫はほとんどないという。
2011年の貿易収支は31年ぶりに赤字となった。生産の海外移転が進んだことも一因で、国内生産が転換点にあるのは確かである。だが、消費者の移ろいやすい好みを短時間で開発、生産に生かす経営戦略や高品質の多品種少量生産を目指すなら国内生産の優位性はまだ残っている。
円高、電力不足など「六重苦」だと我先に工場を海外に移し競争力を高めるのか、製品分野や消費者への訴求点を見直して競争力を高める方策を探るのか。生き残りの解は様々だ。日本企業の経営判断に多様性が生まれれば、空洞化の歯止めにもなる。

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