「ソーシャルシフト」斉藤 徹著…日経新聞1月29日21面より
ネットメディアが変える企業 評・早稲田大学教授 根来龍之
著者の言うソーシャルシフト」とは、ソーシャルメディアが誘起するマーケティング、リーダーシップ、組織構造にまで及ぶビジネスのパラダイムシフトのことである。
ちなみに、ここでソーシャルメディアとされているのは、FacebookやTwitterなどの情報交換・情報共有の新しいネットメディアである。
著者は、ソーシャルメディアは生活やビジネスの構造を大きく変化させると指摘する。それは「人々の心をつなぎ、絶え間なく情報をシェアする文化」をもたらす。そこで共有される情報量は、指数関数的に増えていく。
同時に、このメディアは、信頼できる友人によって「知っておくべき情報」を選別する、ソーシャルフィルタリングの仕組みでもある。著者の主張は、企業もまたこの「信頼できる友人」になることを勧めているものと考えられる。
従って、マーケティングも説得ではなく、共感を目指すことになる。自社を信頼するファンになってもらうことが具体的な目標である。リーダーシップはオープンリーダーシップへと移行する。
それは、謙虚にかつ自信を持ってコントロールを手放すと同時に、相手から献身と責任感を引き出す能力を持つような新しいりーダーのあり方である。その際、組織構造は営業やサービス部門だけではなく、全ての部門で顧客との接点を持つものへと変化すべきだとされる。
最近の流行語はすぐに消えていくように見えて実は通底している側面がある。2000年頃にネット革命という言葉が、05年頃にはWeb2・Oという言葉が出現、話題を集めた。ネットを使って誰でもが情報を発信することが可能になったことを表す言葉だった。
ソーシャルメディアはWeb2・Oの発展型としての情報交換・情報共有の新しい手段である。それはまた、生活者と企業との接点におけるネット革命の発露でもある。
著者の論はこの流れを理念へ高めた側面を持つ。変化を強調する書の常として、既存の社会・ビジネス構造のある面での合理性を軽視するかの記述が見られるのが難点だが、ハウツー的な議論にとどまらない示唆がある。