「これは誰の危機か、未来は誰のものか」スーザン・ジョージ著…日経新聞2月12日20面より

持続可能な資本主義を考える

経済・金融のグローバル化を長年批判してきた著者が、本書では「利益の私有化と損失の社会化」の問題をくり返し指摘している。

米欧の政府は金融危機に対処するため、巨大な金融機関に公的資金を投入した。救済された金融機関の経営者が高額報酬を得る一方、市民には政府債務の累増という負担が回ってきた。

損失つけ回しの構図が残る限り、経営者には過剰なリスクをとろうとするインセンティブが今後も働き、危機がくり返される恐れがある。そこで著者は「銀行の市民管理」や「金融取引税の導入」といった構想を、やや挑発的に読者に提示する。

そうした個別の提案には、支持できないものが多い。しかし、金融危機の背景にインセンティブの問題があるという指摘まで、退けることはできない。英フィナンシャルータイムズ紙の連載「危機にひんする資本主義」でも、経営者報酬の問題がくり返し取りあげられている。

欧州債務危機の対応策としては、欧州政界で議論されている「ユーロ共同債」に近い考えが提示される。このことからも分かるように、著者は現実無視の反市場主義者ではなく、持続可能な資本主義を考えようとする知識人だ。

舌鋒の鋭さは好みが分かれるだろう。しかし、冷静に読めば、頭の中でディベートが成立する内容の本である。

荒井雅子訳。(岩波書店・2400円)

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