「フランコと大日本帝国」フロレンティーノ・ロダオ著…日経新聞3月4日21面より

大戦下の両国関係を実証的に   法政大学教授 川成 洋

第2次世界大戦勃発(1939年9月1日)の3日後、スペインの独裁者フランコ将軍は、スペイン内戦で疲弊した国内再建のために「中立」を宣言する。これは、盟友ヒトラーやムッソリーニのスペイン参戦の強硬な要望を蔑にしたものだったが、すでに独・伊と結んだ「反コミンテルン協定」の関係上、枢軸国に傾く「中立」であった。

一方、内戦で敗北した亡命共和国政府陣営からの執拗な反フランコキャンペーンと対峙しなくてはならなかった。つまり、内憂外患のフランコ体制であった。したがってフランコは、ヨーロッパ戦線の戦況に応じて「中立」、「非交戦国」、「武装中立」と立場を変える。

例えば、41年6月、ヒトラーのソ連への武力攻撃に鼓舞されて、「非交戦国」を名目に、1万8千人の反共産主義の義勇軍「青い師団」を東部戦線に投入する。はたせるかな、連合国側から「青い師団」の撤退を強要され、
フランコは「中立」を宣言し、「青い師団」を解散させた。ところで、この時期、フランコ政権下のスペインと日本はどのような関係だったのだろうか。

このテーマを実証的に論じた本書によると、太平洋戦争勃発時においては、反米感情も手伝ってか、スペインは、日本軍のフィリピンの占領を歓迎し、南北アメリカ大陸における日本の利益代表国になり、20人余りの対米スパイ組織「東」の諜報活動を容認するなど、実に好意的であった。

しかし、時の経過とともに、枢軸国側か劣勢となり、イタリアが降伏し、ドイツも完敗する兆しを見せ始めるや否や、フランコは掌を返すがごとく、連合国支持を鮮明にする。これとほぼ同時に、フィリピン在住のスペイン人に対する日本軍の残虐行為を告発し、さらに日本との国交断絶を含む、敵対関係を公にしつつアメリカにすり寄っていく。

それも「黄色い野蛮」とか「文明的世界とは正反対の人種」といった人種差別的な罵詈雑言を浴びせ、日本に最悪の敵という熔印を押したのだった。だが、こうした外交の妙手であるフランコが目論んだ戦後の国際関係のシステムへの参入は、連合国の反対のために、見果てぬ夢となったのである。

(深潭安博ほか訳、晶文社・5500円)▼著者は60年生まれ。マドリード・コンプルテンセ大教授。

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