憎らしいウイルスどもに、いつまでも暮らしを乱されてはならない。

以下は今日の産経新聞、産経抄からである。
英単語のつづりには、表記されていても声に出さない文字がある。
「knife(ナイフ)」や「knock(ノック)」の頭につく「k」が代表例としてよく知られている。
これを「黙字」と呼ぶそうである。 
英語の先祖にあたる古英語では、いまの「黙字」もしっかり発音されていた。
ものの本にそう書いてある。
時代とともに音が省略され、表記だけが残ったらしい。
思えば英語にかぎらない。
声に出さなくとも読み取らなければならない黙字は、現代の日本にもある。
不要不急な外出の自粛「要請」。
歓楽街などに向けた休業「要請」。
ウイルス禍の広がりで全国に拡大された緊急事態宣言だが、都内ではまだ、夜遅くに場末の居酒屋から笑い声が漏れてくる。
「youse i」の頭についた黙字の「k」を、読み取れぬ人が多い。
保養地の長野県・軽井沢や茨城県のパチンコ店には、首都圏ナンバーの車が増えたという。
「コロナ疎開」なる造語も耳にする。
この10年、大きな災害の度に胸を痛め、被災地に思いを寄せ、自制的な行動で世界の共感を集めた人々とは別の人種を見る思いがする。 
誰に強制(kyouse i)されるでもなく身を慎む。
日本人の美質と良識を信じての政府や自治体の「要請」ではなかったか。
音にならない「k」を読み取り、社会の約束事として受け止める。
その努力が、感染の連鎖を食い止めるための数少ない手立てだろう。 
黙字の「k」といえば、「night(ナイト=夜)」の頭についた「knight(勇士)」も思い浮かぶ。
日々の自制と自粛に心を砕く一人一人が、息苦しい夜から社会を救うことのできる「勇士」である。
憎らしいウイルスどもに、いつまでも暮らしを乱されてはならない。

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