新型コロナウイルスは中国の武漢の国立ウイルス研究所から流出したとみる見解が科学者たちの間でも圧倒的に強くなった
以下は昨日、2021年6月29日の産経新聞に掲載された古森義久の論文からである。
米で強まるウイルス流出説
日本になお苦難を与えたままの邪悪な新型コロナウイルスはいったいどこでどう発生したのか。
国の運命を左右するほどの巨大な影響を受けた日本として再発を防ぐためにも、一度は正面から取り組むべき課題だろう。
この点での米国でのいまの動きを重視すべきである。
新型コロナウイルスは中国の武漢の国立ウイルス研究所から流出したとみる見解が科学者たちの間でも圧倒的に強くなったのだ。
動物からの自然感染という説は大幅に後退してしまった。
特に最近、注視すべきは米国の全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、全米医学アカデミーの3大民間組織が共同で6月中旬に発表した声明である。
同声明は中国の武漢で発生したコロナウイルスの起源について明確に「研究所での事故」という可能性を強調して、新たに実証できる科学的調査の実行を求めていた。
この3組織は米国民間では最大数の科学者が集まる権威ある集団である。
同声明はこの調査では政治的干渉を排し、中国当局の完全な協力を求めて透明性と客観性を貫くことをも要求していた。
この背景には当初、米国内でも中国政府と歩調を合わせる形で主流となった「動物感染説」が論拠を失ってきたという事実があった。
中国側の専門家たちが必死になって進める武漢周辺でのコウモリなどの動物の現在までの検査では数万匹という対象のなかでのウイルスらしい形跡はゼロなのだ。
その一方、武漢市内の国立武漢ウイルス研究所では2002年から中国で発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)のコロナウイルスの感染力を増強する「機能獲得」という作業が19年末まで実施されていたことが米側の多数の関係者により確認された。
その作業に関して北米や欧州の専門家6人が昨年2月に米国の国立衛生研究所(NIH)に発表していた研究報告が、最近になって研究所流出説を十分にありうる現実として印象づけた。
報告は以下の趣旨だった。
「今回の新型コロナウイルスの人間の細胞に侵入する突起物のスパイクタンパク質はSARSのそれと酷似しているが、新型にはSARSにはないフリンと呼ばれるタンパク質分解酵素による溝がある」「この違いは『機能獲得』作業の結果であり、新型には実際にその溝を設けるためのゲノム配列の人工的な組み替えの形跡があった」
以上の趣旨はこの6月上旬に米大手紙のウォールストリート・ジャーナルで大々的に報じられた。
この報告は実は5月からハドソン研究所上級研究員のデービッド・アッシャー氏によっても大枠が裏づけられていた。
同氏はトランプ前政権で国務長官特別顧問として新型コロナウイルスの発生源を専門に調査していた。
そのアッシャー氏が「武漢の研究所では機能獲得の実験が進められ、19年11月にはその新型ウイルスに感染したとみられる研究所員3人が重症となった」と公開の場で証言した。
所員らの感染こそが同研究所からの流出だというのだ。
こうした動きの結果、いまの米国では研究所流出説を「陰謀説」と呼んだワシントン・ポストなど民主党支持の主要メディアまでが武漢ウイルス研究所に正面からの追及の矛先を向けるようになってきた。
(ワシントン駐在客員特派員)