酷暑の夏の過密日程で球児たちの夢をつぶし、健康な体を傷つける商売の手法は、いい加減修正すべきだ。
以下は本日発売の週刊新潮の掉尾を飾る櫻井よしこさんの連載コラムからである。
本論文も彼女が最澄が定義した国宝、それも至上の国宝である事を証明している。
五輪開催反対の朝日の「二重基準」
東京五輪は観客なしでいく。7月8日の決断である。
6月21日には観客数は各会場の定員50%以内で最大1万人と発表したが、2週間余りで反転した。
決定は東京五輪・パラリンピック・組織委員会、東京都、政府、国際五輪委員会、国際パラリンピック委員会の5者によるものだが、矢面に立たされているのは菅義偉首相である。
世論を気にしすぎる、世論次第で武漢ウイルス対策も定まらないなど、首相への評価は芳しくない。
7月6日、萩生田光一文部科学大臣は世界一の能力を持つスパコン、「富岳」による国立競技場に観客1万人を入れた場合の感染リスク予測を発表した。
それによると、観客の中に10人の感染者がいた場合でも、空席を設けて、各自がマスク着用などの対策をとれば、武漢ウイルスの新規感染者は1人未満になるという。
1万人でI人未満は感染率0.01%未満で、限りなくゼロに近い。
1万人を密集させて風の向きを変えたとしても、最大感染者数は4.7人、0.047%だという。
1万人を入れても、密を避けマスク着用を徹底すれば、新規感染者はほぼ出ないのだ。
国立競技場の本来の定数は6万8000人、間を空けて1万人を収容するなど何の問題もなくできる。
菅首相が全力を注ぐワクチン接種も進むだろう。
そのことも含めて総合的に考え、大会関係者は自信を持って、1万人を入れて開催するのがよいと、私は思う。
7月9日、インターネット配信の「言論テレビ」に経済評論家の上念司氏を招いて「五輪と朝日新聞」を語り合った。
日本よりはるかに多くの感染者を出している国々が、種々のスポーツ大会開催で武漢ウイルスに立ち向かっている事例を検証し、私たちは東京五輪の無観客決定は過剰反応だという点で意見が一致した。
「英国ではサッカー欧州選手権にファン6万人以上が集い、熱狂しました。感染者は多少増えたけれど、英国のジャビド保健大臣が言っています。『サッカー大会で感染者は増えるかもしれないが、ワクチン接種が進み死者や重症者はそれほど増えていない。我々はコロナウイルスのことだけを考えては生きていけない。他の健康問題や経済、教育の問題も考える必要がある』。このように政治がはっきりと説明し、決定すれば国民は納得します。それが日本の場合、見られません」と、上念氏。
先述のように一連の決定は東京都も含めて5者協議で下したものだ。
それでも菅首相一人に批判が集中するのは、首相及び菅政権の情報発信力が弱いからだ。
おまけにメディアは極めて非協力的だ。
これは政権の意向に従わないという意味で言っているのではない。
メディアが何でもかでも政権叩きの材料にしてしまう結果、どんな情報もきちんと伝わらないという意味だ。
反政権、反保守、反日
世論は或る意味、メディア次第だ。
そのメディア、とりわけ朝日新聞が甚だしく迷走しており、情報はおよそいつも歪曲される。
反政権、反保守、反日が朝日の特徴である。
新聞のあるべき姿は、社説で社論を説き、紙面では全体像を見渡す公正な報道を展開してみせることだ。
朝日の社説は兎にも角にも政権叩きを旨とする。
これはこれで朝日の主張であるから、そういうものだと受けとめるしかない。
だが、社説で五輪中止を要求し、五輪のオフィシャルパートナーは降りない。スポーツ面では五輪大会を盛り上げる。
五輪開催に重なる時期に予定されている甲子園の高校野球も盛り上げるが、その理由が矛盾している。
社説子が掲げた五輪開催中止要求の理由のいくつかはそのまま甲子園に当てはまる。
まともな新聞人ならスポーツ記事でも社説でも甲子園を中止せよとの論調にならなければおかしい。
たとえば武漢ウイルス拡散への懸念だ。
五輪で大勢が集えばウイルスが拡散すると反対するのであれば、4万7000人が集う甲子園にも反対すべきだろう。
中止でなければ無観客だとの強い意思表示が、朝日側から出てこなければおかしい。
もうひとつは酷暑対策だ。
朝日は酷暑を五輪開催中止要求の理由のひとつとしている。
ならば、甲子園こそ中止すべきだろう。
高校野球の数々の問題点については、門田隆将氏が詳細な説明と共に指摘済みだ。
暑さが最も厳しい夏に、文字どおりの熱戦を展開させて感動物語に仕立て上げ、朝日はそれを商売にする。
結果、才能ある球児たちが肩、肘、膝を壊し、野球を続けられなくなった例は少なくない。
酷暑の夏の過密日程で球児たちの夢をつぶし、健康な体を傷つける商売の手法は、いい加減修正すべきだ。
部数拡張を狙う偽善
しかし、朝日は反省などしない。
批判の矛先は東京五輪と菅政権に向いても、決して己れには向かない。
ダブルスタンダードで部数拡張を狙う偽善こそ朝日の実相だ。
それでも朝日は日本社会で未だ大きな影響力を持つ。
しかし、その未来展望は暗いと、上念氏はズバリ表現した。
「第二の毎日新聞になります」
毎日新聞は部数が減って、大阪の大阪本社ビルを譲渡しても経営が苦しい。
そのために、昔ながらの固定ファンである左系の読者にしがみつくように、いよいよ左翼路線を走り急いでいる印象が強い。
朝日もそうなると言うのだ。
朝日の発行部数は公称で2020年度が494万7000部、14年度より215万部強の減少だ。
毎年約40万部、毎日1000部強の減少といえば、その深刻さがわかる。
公称部数から約3割と見られる押し紙を引いた346万部あたりが今の実力だろう。
350万部を切っていると見るべきで、21年度末には、300万部を割るかもしれないのだ。
朝日は経営の苦しさから19年には社員の給与を一律165万円引き下げることを決めた。
希望退職者も募ったが20年9月の中間連結決算で赤字に落ちた。
今年4月1日には渡辺雅隆社長が引責辞任した。
後任の中村史郎社長の下でも経営は改善されず、5月には21年3月期決算の最終赤字が約442億円と発表された。
部数急減と赤字急増。尋常ではない。
上念氏が語る。
「赤字は朝日の純資産で埋めています。残り純資産は3500億円規模。このまま行くと、純資産を食い潰して債務超過ということもあり得ます。経営合理化の視点で考えれば、新聞事業を切り捨てて不動産事業に集中することも、会社生き残りの有効な手立てです。しかし、それは出来ないでしょうから、新聞事業を守ろうとする。その道の先には『朝日の毎日化』しかないのです」
紙媒体の衰退もあろうが、左翼思想を前面に押し出し、事実を曲げ、日本を貶めるばかりの朝日新聞が、心底いやになっている人が多いということであろう。