読書欄に現れる新聞の「品格」
40年前の産経と、今の産経は別物だ。
その違いは、読書欄を見れば一目でわかる。
とりわけ、この少子化をめぐる書評は、まさに「目から鱗」である。
特に、以下の二つは、目から鱗が落ちる、書評である。
2016-01-24
40年、30年前の産経新聞と、今の産経新聞は、全く別のものだと言っても過言ではないだろう。
読者はご存知のように、高山正之と言う、戦後の世界で、唯一無二と言っても過言ではない、これぞジャーナリストという人間が、日本に存在していたことを、私は、昨年初めて知った。以来、彼の著作を読み続けている事も。
彼の後輩の阿比留記者が、今、論説委員として、毎週、今、現役の新聞記者としては、最も当然にして、見事な論文を書いている。
彼らが産経新聞を今の様な新聞……つまり、今、日本で最もまともな新聞に変えたのだろうと私は確信している。
今日の朝日、日経の読書欄と比較してみれば、産経の読書欄も、その事を明瞭に示していた。
特に、以下の二つは、目から鱗が落ちる、書評である。
※題字以外の黒字強調は私。
―――
日本の少子化 百年の迷走 人口をめぐる「静かなる戦争」
河合雅司著(新潮選書・1400円+税)
政策による「人災」だった
本書は、明治維新以来の現代史を人口政策面からたどり、原資料を巧みに駆使して「少子化」の淵源を見事にえぐりだした労作である。
特にGHQが産児制限に深く関与していたことは注目すべき分析である。
先の大戦中は「健兵健民」の旗印の下、陸軍と厚生省が主導して人口増加政策が推し進められたが、戦後には産児制限を国策にすべく大きく舵を切った。
著者はその背後に、GHQの巧妙な“仕掛け”があったと指摘する。
〈米国は、日本が新領土獲得のために戦争に突入した原因を、戦前の人口過剰に求めていた〉。
また、〈当初、GHQに課せられた占領政策は、日本が二度と米国にとっての脅威とならないよう非軍事化、民主化を推し進め、平和国家に生まれ変わらせることにあったが(略)人口抑制の最大の目的が「共産国化させないこと」となり、米国にとって最優先すべき「国益」になった〉。
しかも、関与の痕跡を残さないよう細心の注意を払ったのは、〈生殖を統制するという考え方がナチスドイツを想起させる点が、米国をより慎重にさせ(略)「日本人の自主性に任せている」と中立性をアピールする必要に迫られていた〉からだと喝破している。
そのうえで、〈現在に至る日本の少子化は“政策”として引き起こされた「人災」であった〉と鋭く結論づけている。
この分析が正しいことは歴史が明らかにしている。
すなわち戦後のベビーブームが欧米諸国では10年以上続いたのに対して、わが国はわずか3年間で終わりを告げ、その後の家族計画運動の高まりと人口過剰論、「個人の権利」を強調する風潮も相まって、行き過ぎた少子化を招き、現在の深刻な危機に至ったのだ。
少子化の克服は困難な課題だが、あらゆる資源を投入して果敢に挑戦せねばならない。
健康寿命の延伸を実現すると同時に、ピンチをチャンスに変えて、高齢になっても生きがいを持って働き続けることができる社会を実現するために、地域医療に携わる方々に一読を薦めたい。
評・横倉義武(日本医師会会長)