「米国は中国が支配するアジアから手を引けるが、日本はアジアから後退することはできない」と述べたコルビー氏は、日本が軍事費面などで同盟強化に取り組まなければ、中国に従属する結果を招きかねないという意味も付け加えた。

以下は8月11日、「脅威」認め従属の道を避けよ、と題して産経新聞に掲載された特別記者石井聡の論文からである。
私は、彼が産経抄等を書いていた頃は朝日新聞の購読者だった。
だから彼が産経新聞でも有名な記者の一人である事を全く知らなかった。

閉幕した東京五輪の名場面の中でも、女子ソフトボールの日米決勝戦は印象に残る。
互いにビッグプレーを繰り出し、決定的なビンチを乗り切る戦いには勝敗を超える価値があった。
平和の祭典、スポーツの世界の事とはいえ、鬼気迫る米国の底力と精神力を見て、やはりこの国とは味方でいた方がよいと思った。 
保守派の米シンクタンク、ハドソン研究所が5月に開いたネット会議の議事録が最近、公判された。
日米の次期国家安全保障戦略・国防戦略に関する討議で、3月の日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)や4月の日米首脳会談の結果を踏まえ、両国の専門家たちが話し合った。 
進行した同研究所の村野将(まさし)研究員は「日米同盟は中国との戦略的競争のスタートラインに立った」との基本認識を示し、同盟をさらに戦略的に連携させることが鍵になると提起した。 
議論の中で、2018年の米国家坊衛戦略(XDS)策定にもあたったエルブリッジ・コルビー元国防次官補代理の発言が鋭い。 
「米国は中国が支配するアジアから手を引けるが、日本はアジアから後退することはできない」と述べたコルビー氏は、日本が軍事費面などで同盟強化に取り組まなければ、中国に従属する結果を招きかねないという意味も付け加えたた。 
逃げられない日本 
7月に発表された令和3年版防衛白書は、力による現状変更を進める中国の動向により、台湾をめぐる緊張が高まることへの警戒感を明記して注目された。 
台湾情勢の重要性を明記する意義が大きいのはもちろんである。
だが、これは2プラス2の共同文書などで確認済みだ。
むしろ、違和感がより強まった点がある。
中国は台湾に危機をもたらそうとするだけでなく、尖閣諸島を力ずくで奪おうとしている。
その評価を「安全保障上の強い懸念」にとどめ、いまだに「脅威」であるとの認識を示さなかったことだ。 
昨年9月、当時の河野太郎防衛相が米戦略国際問題研究所(CSIS)の行事で「外相時代は中国を脅威と呼ばず、重大な懸念と言ってきたが、防衛相としては脅威と言わなければいけない」と述べて波紋を呼んだ。
後日、河野氏は「政府の中でさまざま、中国を評価する場面が来るときには、防衛相としてそうしたことを議論の中にインプットしていく責任はある」と会見で説明した。「重大な懸念」という公式見解は変わらないが、安全保障の観点からは不適当である実態を浮き彫りにしたものだ。 
それにしても、中国の海警法施行など覇権主義的な動きや尖閣周辺海域での海警の活動を非難するなど、白書は工夫を凝らして中国への警戒感を表現しているのに、なぜ「脅威」は使えないのか。
その遠因は河野氏の会見にも垣間見えた。
日中両国のトップが「互いに脅威とならないということを話し合っている」ため、脅威とは呼ばないようにしているようだ。 
「縛り」を解くとき
昭和47年の日中共同声明には、双方が「武力又は武力による威嚇に訴えない」と書かれた。
国交を正常化する国どうしが最初に合意する項目としてはおかしくない。
だが時が流れ、平成20年内日中共同声明で「双方は互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」と念押ししたのは余計だった。
東シナ海ガス田問題など対立点を抱えながら、両国には「戦略的互恵関係」を淮進するレールが敷かれていた。 
こうした縛りが解けないまま、25年の国家安全保障戰略は「懸念」を抱きながらも日中関係の進展を前提に書かれた。
それに基づく30年の防衛計画の大綱も「脅威」の言葉は使わない。
おのずと白書も使わない。そういう構図がある。 
日本が「何から自分を守るのか」をはっきりさせていなければ「どう守るのか」は完結しようがないではないか。
すでに米国や他の友好国を巻き込んで動き出しているインド太平洋構想は、日米同盟とともに日本外交の軸となっている。
だが、大本となる国家安保戦略には明示していない。 
中国との経済関係を断ち切るのは困難とみて、対立する概念を象徴する「脅威」を打ち出すのを避けたかとの判断もあろう。
中国依存の経済構造から転換が論じられるのはよいが、中国経済それ自体が脅威になり得るという問題の本質から目を背けてはいないか。 
日米が共通の課題を抱え、互いに国家戦略を練り直す局面を迎えているのは幸いである。
秋の自民党総裁選でも論じてほしい。

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