「初耳だ」と驚かれた日本外交 ― 外務省が発信しなかった致命的現実
慰安婦強制連行説を否定する日本政府の主張に、国連委員が「初耳だ」と驚いた事実は、外務省が国際社会に何も発信してこなかった証左である。櫻井よしこ氏の告発を通じ、日本外交が名誉回復を外務省に任せられない理由を明らかにする。
2016-02-01
以下は今日の産経新聞のフロントページからである。
題字以外の文中強調は私。
「外務省には任せられぬ」
櫻井よしこ。
2月15日からジュネーブで開かれる国連女子差別撤廃委員会で、政府がようやく、
「慰安婦は強制連行ではない」
と反論する。
これは昨年7月、同委員会から、
「慰安婦の強制連行はないとの主張がある、見解を述べよ」
と問われた件への回答である。
わが国への執拗で根深い歴史非難は、外務省が国際社会に向けて、一度もまともに反論しなかったことが、最大の原因である。
国益を深く傷つけた、従来の沈黙に比べれば、今回は、最小限の反論ながら、反論した点で、一応評価してよい。
しかし、ここに至るまでの深刻な対立を見れば、日本の真の名誉回復は、外務省では、おぼつかないと考えざるを得ない。
差別撤廃委員会への回答は、実は、昨年11月までに完成していた。
クマラスワミ報告書をはじめ、国際的対日非難の勧告に、
「一方的で裏打ちのない内容が記載されている」
と反論し、客観的事実に基づく日本理解を求める、しっかりした内容だった。
慰安婦強制連行に関する日本側の証言者、吉田清治氏の記事を、朝日新聞が取り消したこと。
1990年代初頭以降の日本政府の調査では、軍や官憲による強制連行を示す記述に行き当たらなかったこと。
20万人という数字は、慰安婦と女子挺身隊の混同であり、具体的裏付けがないこと。
それらも、明記されていた。
ところが、昨年12月28日、日韓外相が、
「慰安婦問題は、最終的かつ不可逆的に解決される」
と合意すると、外務省が、右の回答に難色を示した。
「一方的で裏付けのない内容」などの、強い表現では、国内の強硬論と向き合わざるを得ない、尹炳世外相がもたないとして、
「最終的かつ不可逆的」
という合意と、
国際社会では非難し合わない、
との合意だけを書いた、一枚紙を、代替案として出してきた。
猛然と異論を唱えたのが、首相補佐官の衛藤晟一氏らである。
国連の問いに、まともに答えない正当な理由は、何か。
事実の客観的陳述は、非難し合わないとの合意には反しない、
という氏らの主張は、すべて、もっともである。
そこで出された、折衷案が、冒頭の回答だった。
強制連行は否定しているが、文書では、
20万人、
性奴隷、
などの非難には、全く触れていない。
それらは、ジュネーブの会議で、杉山晋輔外務審議官が、口頭で述べるという。
状況の厳しさを、外務省は、どこまで理解しているのだろうか。
口頭説明だけで、日本への根強い歴史非難を、打ち消せるのか。
そもそも、今回、反論の機会に恵まれたのも、外務省の働きによるものではない。
前衆議院議員の杉田水脈氏らが、昨年7月、同委員会準備会合で、
強制連行説には、根拠がない
と訴えたのが、きっかけである。
委員らは、
「初耳だ」
と驚き、日本政府に、問い合わせた。
国際社会に向けて、外務省が、いかに、何も発信していないかを、示している。
この稿、続く。