スパイの募集は今も続いている――中国を舞台にした情報戦の現実。

中国の情報機関が米国人学生や旅行者を標的に勧誘を続けている実態と、それがCIA内部に疑心暗鬼を生み出している構造を、FBI関係者や元防諜責任者の証言から描く。

2017-04-11
「スパイの募集は今も続いている」と、中国に向かう学生に彼は警告する。
以下は前章の続きである。
中国の経済と財政担当幹部らは、最大の貿易相手国であるアメリカとの対立を深めることは避けるべきだと主張した。
だが情報担当と軍幹部は、超大国になった中国はアメリカに対してもっと強い姿勢で臨むべきだと主張し、議論に勝った。
「近年の大きな変化は、以前にも増して、全てのアメリカ人が標的になっていることだ」とワイルダーは言う。
「国家安全省の担当者は欧米をよく知っており、言語能力も以前より高い。
彼らは中国に来る白人学生や旅行者を簡単に勧誘できる」。
FBIは11年に、シュライバー事件をドラマ化した動画『ゲーム・オブ・ポーンズ』をウェブサイトで公開している。
中国にいる若いアメリカ人への警告として制作されたものだが、アメリカのスパイ・ハンターの早過ぎる勝利宣言とも言える。
だが、かつてFBIの防諜部隊を率いていたハリー・ブランドンは、シュライバーの一件が失敗に終わったとはいえ、国家安全省には一定の収穫があったのではないかと言う。
「彼らはただ、われわれを混乱させようとしていただけかもしれない」。
冷戦中、ソ連のKGBにだまされたCIAの防諜責任者ジェームズ・アングルトンは、CIAが二重スパイだらけになったと思い込み、ロシア人職員の採用を凍結したことがある。
「中国側は、CIAを被害妄想に陥れるためにシュライバーをわざと捕まらせたわけではないだろう」とブランドンは言う。
しかし、中国をよく知り語学にたけた人材の採用をCIAがためらうことには、「一定のメリットを感じたかもしれない」。
そして、そうした疑いは、イラン、ロシア、シリア、パキスタン、旧ソ連圏諸国などで経験を積んだり、親戚関係を持ったりする候補者にまで広がっているという。
確かにCIAは被害妄想かもしれない。
しかし、全てが妄想とは限らない。
『ゲーム・オブ・ポーンズ』の終盤で、獄中のシュライバー自身が語っている。
「スパイの募集は今も続いている」。
「ちゃんと用心しろ。
募集は活発で、その標的は若者なんだ」。

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