グローバル化の終焉と、不可逆に進むローカル化の時代

米国企業の自国回帰は一過性の政治現象ではなく、賃金構造の変化、自動化、政治・物流リスクを背景にした構造転換である。日経新聞掲載のフィナンシャル・タイムズ特約記事を基に、トランプ政権以前から始まっていた「ローカル化」の本質を読み解く。

良くも悪くもローカル化は進む。
2017-06-06
以下は昨日の日経新聞7ページに掲載されたフィナンシャル・タイムズ紙との特約記事からである。
見出し以外の文中強調は私。
米国版編集長ジリアン・テット。
米企業の自国回帰は続く。
最近まで事務用品大手の米スリーエム(3M)のような企業がグローバル化の推進役のように見えた。
同社は300億ドル(約3兆3400億円)に及ぶ売上高の6割を国外事業で稼ぎ、従業員の4割を国外拠点に配置している。
だが、同社の最高経営責任者(CEO)インゲ・チューリン氏は最近、企業戦略に関してグローバル化に言及しようとはしない。
むしろ好んで語るのは、自国回帰を意味する「ローカル化」であり、“偉大な米国”でビジネスをすることの利点だ。
同氏は先月、「数年前までは国外で生産し別な国へ輸出してきたが、今はローカル化とリージョン化(地域化)の戦略を採っている。
できる限り国内市場に投資すべきだと考えている」とニューヨークの外交問題評議会で語った。
同様の意見は他の経営者からも非公式に聞く。
欧米の多国籍企業は過去30年間、中国のような低コスト国に生産を委託し、世界規模のサプライチェーンを築いてきた。
しかし現在、米国の経営者は自由な貿易より公正な貿易を主張し、遠回しに米企業にもっと有利な条件を要求している。
これはある意味、ホワイトハウスの考え方を反映したものだ。
経営者はトランプ大統領の「米国を再び偉大にする」という主張に同調することで、政権に取り入ろうとしている。
ツイッターで攻撃されるのも避けようとしている。
トランプ氏が掲げる経済政策を歓迎している経営者も多い。
実際、大統領就任から数ヶ月たった今も、経営者の大統領への支持は依然、驚くほど高い。
ホワイトハウス周辺で相次ぐスキャンダルや、地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定からの離脱をめぐる騒動も響いていないようだ。
「大統領は経済成長の推進に積極的に取り組んでいる。
米国でビジネスをする観点からすればいいことだ」とチューリン氏は主張する。
こうした発言を裏付ける重要な流れがある。
米ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の調査によると、米企業はこれまで国際的なサプライチェーンの構築に注力し、2012年には3割が中国を最も有望な投資先だと回答していた。
ところが2015年には、国内生産を拡大する計画の企業が31%に上り、中国で増やすと答えた企業の20%を上回った。
理由の一つには、中国の賃金コストの相対的な上昇がある。
自動化の進展や燃料費などの低下による米国での生産コストの下落も要因だ。
3つ目として、大規模なサプライチェーンの構築・維持には政治リスクや物流リスクが伴うと経営者が気付いたことが挙げられる。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルトCEOは昨年末、「最低の労働コストを追求するビジネスモデルは過去のものだ」と述べた。
無論、大企業の経営者が世界に背を向けているわけではない。
ローカル化を推進しつつも、海外向けに海外で生産する理由はある。
ローカル化にしても、ゆっくりと目立たない形で起きているだけだ。
とはいえ、重要なのはトランプ氏の就任前から、経営幹部はグローバル化への妄信を捨て始めていたということだ。
良くも悪くもローカル化は進む。
促しているのは扇動的な政治家だけでなく、ロボットやデジタル技術の普及だ。
この流れは恐らく、どんな大統領の時代より長く続くだろう。
(二日付)

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