習氏の「一帯一路」は正念場に――ベネズエラ急襲が暴いた債権のわな
習近平政権の命綱である「一帯一路」は、不動産バブル崩壊と外資流入減少の中で正念場を迎えている。中南米の橋頭堡ベネズエラに対する米軍の電撃的行動は、中国が陥った「債権のわな」を白日の下にさらした。田村秀男による分析は、オールドメディアが報じなかった現実を明確に示している。
習氏の「一帯一路」は正念場に
2026年は、中国の習近平国家主席肝いりの中華経済圏構想「一帯一路」の中南米における橋頭堡、ベネズエラに対する米軍の電撃的な急襲で明けた。
不動産バブル崩壊不況の底が見えない中、一帯一路圏の取り込みによって経済の難局打開を図る習政権の正念場になりかねない。
グラフはインフラを中心とする対外建設プロジェクトの新規契約に占める一帯一路沿線国・地域向け新規契約の比率と中国の不動産開発投資の前年比増減を対比させている。
不動産開発投資は12年秋に実権を握った習氏が高度経済成長のエンジンとしていたが、21年には不動産バブル崩壊が始まり、成長モデルが行き詰まった。
22年から現在に至るまで大幅な落ち込みが続いている。
そこで習政権がのめり込んでいるのが一帯一路圈への輸出の加速と投資攻勢だ。
14年に本格化した一帯一路向け投資は20年にいったん落ち込んだが、22年以降、習氏の大号令によって再び盛んになった。
一帯一路向け新規契約総額の前年比増加率は22年97%、23年175%、24年102%、25年は11月時点で120%とすさまじい伸びである。
その結果、対外プロジェクト新規契約に占める一帯一路のシェアは急上昇し、23年は86%。24年と25年は87%以上を占めた。
中国は貿易面でも一帯一路圈向けを急増させており、全輸出に占める一帯一路圈シェアは21年の30%から25年には50%超となった。
アジア、アフリカ、中南米などで中国が手がけるインフラ・プロジェクトは中国企業が受注し、中国の設計、資材、労働者、さらにファイナンスまで中国の国有銀行が受け持ち、人民元のやりとりで済む。
相手国との契約はドル建てで、現地政府は債務の返済ではドル払いを押し付けられる。
債務返済不能となれば、完成した港湾などのインフラめ独占使用権を中国側に譲渡しなけれぱならなくなる。
これが「債務のわな」と呼ばれる。
習政権は不動産バブル崩壊不況に対し、はかばかしい景気テコ入れ策を打てないでいる。
中国の金融・財政は外貨準備を裏付けとする人民元資金発行に支えられているが、外貨流入源である海外企業と投資家の対中投資が激減している中で、中国人民銀行は政府が景気対策のために発行する国債や地方債の購入に慎重姿勢を崩していない。
外貨の裏付けのない人民元資金を大量発行すれば、、人民元は信用を失い、デフレから高インフレに転じかねない。
それを恐れる習氏はデフレ容認の姿勢を示すので、人民銀行は大掛かりな金融緩和に踏み出さないままだ。
他方では外貨流入が細れば、経済運営が困難になるので、外国からの対中投融資減を補うため、輸出を急増させい貿易黒字を増やそうと躍起になっている。
一帯一路こそは習政権の命綱なのだ。。
ベネズエラに関しては、習氏が党総書記に就任した12年からベネズエラ向けに経済協力と引き換えに石油を引き取るパッケージを提示し、インフラ投資を本格化させた。
習氏は続いてユーラシア大陸全域を網羅する「一帯一路」構想を打ち出し、ベネズエラなど中南米を延長ルートに組み込んだ。
ベネズエラは13年に死去したチャベス氏の後継、マドゥロ政権の下、原油価格の暴落とともに破滅的な高インフレに陥った。
中国利権がからむ汚職腐敗もひどく、嫌気が差した約800万人の国民が米国などへ流出した。
習政権がベネズエラ利権拡張に本腰を入れたのが25年8月だ。
ロイター電によれば、中国の民営石油資本コンコード・リソーシズ・コーホレーション(CCRC)がベネズエラの油田開発で10億ドル超を投資する契約をマドゥロ政権と交わした。26年末までに日量6万バーレルの生産をめざすとされた。
そして、この1月2日、首都カラカスに習政権の特使が派遣され、マドゥ口氏と会談し、経済協力の再開を約束した。米軍の急 襲はその数時間後である。
中国側にはどうしてもベネズエラ原油を引き取らなければならない事情がある。
中国は対ベネズエラ向けに石油融資190億ドルを含め約600億ドルの債権が焦げ付いている。
原油輸入はその回収のためだ。
トランプ政権は中国の石油など経済利権を没収する。そしてベネズエラ原油を高値で中国に引き取らせ、そのカネでベネズエラ経済を復興させるつもりだ。
習政権は債権回収のためにもトランプ政権が示す条件を拒絶できない。
債務のわなならぬ「債権のわな」にはまった。
(編集委員)