過去を引き合いに出しての「道徳的立場」は、真に道徳的とはいいがたい。
エマニュエル・トッドと朝日新聞論説主幹・若宮啓文の対談を通じ、戦争責任・核・同盟・ナショナリズムをめぐる議論を整理し、「過去への過剰な拘束」が現在の責任と現実的判断を妨げているという問題を浮き彫りにする。
過去を引き合いに出しての「道徳的立場」は、真に道徳的とはいいがたい。
2016-10-31
以下は彼が引用したサイトから、彼の引用文以降の続きである。
◆核兵器 「帝国以後」のエマニュエル・トッド氏と対談
(2006年10月30日朝日新聞掲載記事)
見出し以外の文中強調は私。
トッド
一方の中国は賃金の頭打ちや種々の社会的格差といった緊張を抱え、「反日」ナショナリズムで国民の不満を外に向ける。そんな国が日本の貿易パートナーなのですよ。
若宮
だから核を持てとは短絡的でしょう。
トッド
核兵器は安全のための避難所。核を持てば軍事同盟から解放され、戦争に巻き込まれる恐れはなくなる。ドゴール主義的な考えです。
若宮
でも、核を持てば日米同盟が壊れるだけでなく、中国も警戒を強めてアジアは不安になります。
トッド
日本やドイツの家族構造やイデオロギーは平等原則になく、農民や上流階級に顕著なのは、長男による男系相続が基本ということ。兄弟間と同様に社会的な序列意識も根強い。フランスやロシア、中国、アラブ世界などとは違う。第2次大戦で日独は世界の長男になろうとして失敗し、戦後の日本は米国の弟で満足している。中国やフランスのように同列の兄弟になることにおびえがある。広島によって刻まれた国民的アイデンティティーは、平等な世界の自由さに対するおびえを隠す道具になっている。
若宮
確かに日本は負けた相手の米国に従順でした。一方、米国に救われたフランスには米国への対抗心が強く、イラク戦争でも反対の急先鋒でした。「恩人」によく逆らえますね。
トッド
ただの反逆ではない。フランスとアングロサクソンは中世以来、競合関係にありますから。フランスが核を持つ最大の理由は、何度も侵略されてきたこと。地政学的に危うい立場を一気に解決するのが核だった。
若宮
パリの街にはドゴールやチャーチルの像がそびえてますが、日本では東条英機らの靖国神社合祀で周辺国に激しくたたかれる。日本が戦争のトラウマを捨てたら、アジアは非常に警戒する。我々は核兵器をつくる経済力も技術もあるけれど、自制によって均衡が保たれてきた。
トッド
第2次大戦の記憶と共に何千年も生きてはいけない。欧州でも贖罪意識が大きすぎるため、世界に責任を果たせないでいる。過去を引き合いに出しての「道徳的立場」は、真に道徳的とはいいがたい。
若宮
「非核」を売りにする戦略思考の欠如こそが問題なのです。
トッド
小泉政権で印象深かったのは、米国への完全服従を隠す「にせナショナリズム」ですよ。
若宮
面白い見方ですね。
トッド
核を保有する大国が地域に二つもあれば、地域のすべての国に「核戦争は馬鹿らしい」と思わせられる。
この稿続く。