習氏は毎週のように中国各地で演説し、「戦いに備えよ」と訴えているが、世界は無関心だ。憂慮すべき事態といえよう。

以下は今日の産経新聞に掲載された、エドワード・ルトワック氏の定期連載コラムからである。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。

習体制、台湾侵攻へ籠城準備
金融業界の専門家は必ずしも外交政策や安全保障に通じてはいない。
だが最近、付き合いのある複数の金融専門家たちとある問題について意見を交わしたところ、彼らの分析が私の見立てと一致していることを知り、衝撃を受けた。 
その分析とは、中国の習近平体制が台湾海峡での軍事作戦の実施を計画しているというものだ。
私の分析は既に米国防総省にも提供済みだ。
時期に関して断定はできないが、中国としてはウクライナ戦争が続いている間を、軍事作戦が実施可能な期間と見なしている。 
ウクライナ情勢に関しては停戦や和平の機運が生じており、その意味で中国の軍事行動は差し迫っている恐れがある。 
最大の根拠の一つは、前回の当欄でも指摘したが、中国がこれまで二十数年間進めてきた森林保・護政策である「退耕還林」を放棄し、食料増産のため森林を含む利用可能な土地を耕作地に転換する「退林還耕」政策を前にも増して急激に推し進めていることだ。 
中国当局はこれらの耕作地で小麦や米、大豆を生産するよう指示している。
野菜の生産をやめ、穀物に切り替えるよう命じられた農家も多い。 
これらは、いわば籠城のための食料だ。
中国の台湾侵攻を受けた経済制裁で北米などから穀物の輸入が途絶えるのを見越した措置だ。
また、生きた牛の輸入も増えている。
最近の鶏肉の輸入量は過去にない規模だ。

秦剛外相 計画反対で解任か
中国の習近平国家主席は、台湾の武力統一に向けた具体的な計画を策定している。
また、習氏はロシアのウクライナ侵略に関し、ロシアの行動が米国との核戦争に発展せず、通常兵力による局地的な限定戦争に終始していることに教訓を得た。 
中国は台湾侵攻に当たり、戦火の拡大を防ぐため戦場を台湾海峡周辺に絞るはずだ。
横須賀や沖縄の米軍基地から出撃した航空機や艦船を迎え撃つことはあっても、米軍基地そのものを攻撃することはないだろう。 
習氏は台湾に限定戦争を仕掛けて何を得ようとしているのか。
それは習氏が作り上げた新世代の中国軍人らによる「若返り、再活性化された中国」の存在を世界に知らしめることだ。 
習氏の想定では、台湾に侵攻した中国軍は台湾軍の抵抗や米軍との衝突があったにしても、中国に内通する台湾の軍や情報機関の一部による体制転覆工作などを駆使し、迅速に台湾を攻略できるとみているようだ。
台湾の蔡英文総統は9016年の就任当時、中国に籠絡された恐れがある中国大陸出身者を軍高官の職から一斉排除するよう周囲から助言されたが、政治対立をあおる恐れがあるとして助言を退けた。
だが、これは大きな過ちだった。 
台湾に中国の内通者がどれだけいるかは不明だが、中国共産党は国共内戦の時代から内部工作による敵の弱体化を常套手段としてきたことを想起しておく必要がある。
一方で、中国の思惑とは裏腹に台湾有事が長期化した場合、世界経済に与える影響は計り知れない。
まず、中国からの供給網が途絶え、深刻なインフレを引き起こす。
世界の株式市場は暴落するだろう。 
世界の製造業大手は中国依存からの脱却を目指して生産拠点の分散化を進めているが、例えばある電化製品の97%の部品をベトナムやインドで生産したとしても、残りわずか3%の部品が中国製ならば製品は完成せず、出荷もできない。 
台湾有事が中国経済にも悪影響を及ぼすのは必至であることを考慮すると、実は習氏は中国を豊かな国にすることに関心が薄いように思える。
習氏が目指すのは、中国を若き戦闘国家に仕立て上げることなのだ。 
中国の秦剛外相が7月に解任されたのも、習氏が進める台湾侵攻計画を秦氏が知り、反発したためとみられる。
それも当然だ。
習氏の計画は戦略性に欠けている。
習氏は国家としての中国の再生という、歴史や文化の視座からの取り組みを進めているからだ。 
習氏は毎週のように中国各地で演説し、「戦いに備えよ」と訴えているが、世界は無関心だ。
憂慮すべき事態といえよう。

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