対中認識は日米で変わりなし――習近平国賓訪問と日本外交の責任

2020年1月21日発信。
前章に続き、安倍晋三首相、櫻井よしこ氏、田久保忠衛氏による対談から、日米の対中認識、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」、多国間協力、日米同盟、日米豪印の安全保障ネットワーク、中国の軍事拡張、尖閣・香港・ウイグル問題、そして習近平国家主席を国賓として迎える意味を論じる。中国に対して言うべきことを言いながら、国際スタンダードに沿った行動を促す日本外交の課題を考察する。

2020-01-21
トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」を宣言していますが、どの国も自国の利益を最優先しています。実現の仕方はさまざまです。
以下は前章の続きである。文中強調は私。
対中認識は日米で変わりなし
田久保
現在の国際情勢は米国が戦後打ち立てた秩序である、民主主義やグローバリゼーションなどが後退しつつあるのではないかという印象を受けます。
先進7ヵ国(G7)の欧州指導者の中で民主主義なんて言っているのはドイツのメルケル首相ぐらいではないか。
そして、トランプ大統領は「アメリカ第一主義」を打ち出しています。
こういう状態で、新しい国際秩序は出てくるのでしょうか、転換期にあるのでしょうか。
安倍
G7は米ソの冷戦構造が存在した時代に、自由、民主主義、人権の普遍的価値を共有する国々、経済的に力を持つ国々でスタートした会議体です。
経済や安全保障で大きな役割を担ってきたと思います。
北大西洋条約機構(NATO)や世界貿易機関(WTO)のような多国間主義に対する挑戦があるのは事実です。
トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」を宣言していますが、どの国も自国の利益を最優先しています。
実現の仕方はさまざまです。
ただ、自国の利益を確保する上で多国間の協力は不可欠です。
先般、トランプ氏はNATO首脳会議に出席し、各国に防衛費の負担を求めました。
欧州の防衛体制維持において、「米国だけに頼るな」ということでもあるのでしょう。
その中で、日本も、この地域の安全保障に対して責任を持たねばならないのです。
強固になっている日米同盟をテコに、日米だけでなく、日米豪、あるいは日米豪印といった「同盟ネットワーク」を広げていく努力が必要です。
トランプ氏は多国間主義を否定しているわけではありませんが、アメリカがマルチ(多国間)の中心に存在するように日本も努力していきたいと思います。
田久保
前提となる中国のとらえ方について、日米間に共通の認識があるということですね。
安倍
中国は中長期的に国際社会において、最大の課題でもある。
もちろん最大のチャンスでもあるわけですが、膨大な費用を使って軍事力を増強し、東シナ海、南シナ海で一方的な現状変更の試みをしようとしている。
こうした中で、日本は長い間、国際的なプレーヤーたろうとはしなかった。
私は、それでは日本や地域の安全は守れないと考えていました。
第一次政権の時に、あまり報道されませんでしたが、ブリュッセルに行って、日本の首相として初めて(NATOの最高意思決定機関である)北大西洋理事会で演説しました。
それがNATOとの関係において日本も協力を深めていくきっかけとなりました。
(物資や役務を融通し合う)物品役務相互提供協定(ACSA)もかつては日米だけでしたが、第二次安倍政権ができて以降、日豪、日英、日仏、日加と、安全保障のネットワークを広げてきて、今、インドとも大詰めの交渉中です。
アジア太平洋、インド太平洋で、日本が中心的プレーヤーとして地域に貢献しなければならないと認識しており、そのための努力を積み重ねてきているということです。
田久保
米国の対中政策は非常に厳しいものがありますが、総理の対中政策は少なくとも短期に関する限りは、米国と違ってきているのではないかという気がします。
安倍
トランプ氏が大統領に当選された直後、私はニューヨークのトランプタワーを訪問して長時回話をしましたが、中心的テーマは中国でした。
熱心に聞いていただいた。
基本認識について日米は変わりありません。
日米は同盟関係にあり、日本の外交安全保障の基盤です。
これが揺らぐようなことがあってはならない。
同時に、私も日本の総理大臣として中国に対しては、言うべきことは申し上げてきました。
日中関係が「正常な軌道に戻った」というのは、首脳問の相互訪問が行われなかったときに比べて、お互いに相互訪問するようになったということなんです。
課題があるからこそ対話をしなければいけない。
中国に対しても、例えば、尖閣諸島について日本の意志を見誤ってはならないことを習近平国家王席に申し上げています。
今後も言うべきことは申し上げていきますし、日本の基本的な姿勢を変えることはもちろんありませんし、安全保障、あるいは領土といった基本的な問題について日本が譲歩するということはないわけです。
ただ、中国が世界における極めて重要で主要なプレーヤーであることに変わりはないわけです。
これからも経済成長していく中で、中国の力は増していくだろうと思います。
そこで、中国に国際的なスタンダードに則った行動を促していく必要があります、同じアジアの国として、隣国として。
そこで今回、習主席を国賓としてお迎えする。
その意味は、令和の新しい時代がスタートした中で、日中両国は互いに地域、そして世界の平和と安定と繁栄に大きな責任を共有しているとの認識を確認し、責任を果たすべきとの認識を共有する機会なのです。
その責任感の下に、国賓としてお招きするという判断をしました。例えば、「一帯一路」について、われわれは当初から中国に透明性・開放性・経済性、債務の持続性といった課題について、国際スタンダードに合ったものにしなければいけないと申し上げてきました。
日本で令和元年六月に開催したG20(20力国・地域首脳会議)では、中国側から「自分たちはルールを守っていく」と主張するようになったんですね。
ただ、実際に守るのかをわれわれは注意深く見ていく必要があります。
もちろん彼らが考えを変えないこともあります。
尖閣、あるいは邦人拘束の問題、香港への中国の対応についても、言うべきことはしっかり言っていきたいと思います。
櫻井
今、アメリカの世論は圧倒的多数が中国政策について非常に厳しい認識を持っています。
そのアメリカの対中政策を私たちがどう捉えるかということが大事だと思います。
ただ、アメリカが日本の頭越しに中国と手を結ぶということは常に一つの可能性として考えておかねばなりません。
同時に、今のアメリカは民主主義や人権といった大事な価値観を守るという方向です。
そこに日本がどう貢献していくのか、ということが今回の習氏の訪日とからんでくるのだろうと思います。
安倍
米国の安全保障に関する対中姿勢、懸念は、トランプ政権というよりも、共和党、民主党共通の姿勢だと考えます。
中国が大きく対応を変えない限り、そう簡単にアメリカの対応が変わることはないと思います。
一方、米中の通商摩擦については、トランプ氏はリードしたいのでしょう。
われわれは両国の貿易関係が安定的なものになることを望んでおり、世界経済もそれを求めているんだろうと思います。
では、日本がどう貢献していくのか。
例えば安全保障の基盤となる「第5世代(5G)移動通信システム」の問題があります。
日本は、先般のG20においても自由と民主主義、人権、法の支配といった価値を持った国々の中においてリーダーとなると表明しました。技術立国・日本ですから、リーダーとなる基盤を日本が提供できるようにしたいという意思を示しました。
そういう面でも日本はきちんと貢献していきたいと思います。
「国賓」を最大限活かす
田久保
話は少し戻りますが、当面の問題で習氏を国賓で招いた場合、必ず天皇陛下の訪中ということになります。
また、国賓で迎えるタイミングが、香港で血塗られる事件が起きている最中で、桜の花の鑑賞ということになると非常にまずいな、という懸念があります。
安倍
先般、習主席、それから李克強首相と首脳会談を行った際にも、香港における自制を強く求め、対話によって解決すべきだということを強く求めました。
先ほど申し上げましたように、国賓としてお招きするということは、両国が地域の平和と安定に責任を持っている、また責任を持つべきだという認識を共有する機会とするわけですから、われわれも努力をしますが、中国側にもその努力をしていただきたい。
櫻井
私の周りの人で、誰一人として習氏の「国賓待遇」に賛成の人はいません。
しかも全員が安倍政権の支持者です。
総理が習氏を国賓で待遇すると言われたのは5月で、香港問題が起きる前ですが、香港問題が起きて世界の世論はガラリと変わりました。ウイグル問題も出てきました。
新しい状況が出る前に提案したこととはいえ、方針転換できないものでしょうか。
それに、国益に反するのではないかと思うのです。
安倍
『正論』の読者の皆さんは、櫻井さんのご意見に共感される方が多いかもしれないと思います。
繰り返しになりますが、まさに国賓というのは日本人にとって極めて重要なことなんです。
この重要な訪問ということからも、お互いに責任をしっかりと認識をするという訪問にしたいと考えています。
櫻井
尖閣の問題や日本人の不当勾留、全般的な香港やウイグルなどの人権問題についても問題提起されるのですね。
安倍
今までも提起してきましたし、年末に中国で開かれる日中韓首脳会談の際に、習氏との首脳会談で言うべきことは当然、主張します。
田久保
日中は圧倒的に日本が有利になってきたのではないでしょうか。
「一帯一路」などは失敗し、中国経済も良くないところにきて、トランプ氏に貿易戦争を仕掛けられた。
日本にどうしても助けを求めたいと思った時に、総理も手を差し出されて、互いに予想外にうまくいってしまった感じがします。
それだけに危険ではないでしょうか。
むしろこういう場合は「国賓カード」はお出しにならないで、「靖国神社に行くぞ」というぐらいの要求をお出しになったほうがよろしいんじゃないでしょうか。
安倍
日中関係は、私が総理に就任した時、非常に厳しい状況でした。
日中関係を安定させることは日本の国益上、必要だと思い、また、国際社会からも強く求められていました。
関係を安定させるための努力を重ね、私は譲るべきでないものは一切、譲ってこなかったのですが、関係は改善し、相互訪問が順調に進みました。
今回、国賓訪問で両国が合意したことを最大限活かしていきたいと思っています。

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