「敵前逃亡」で権威失墜の習近平――新型コロナ危機が暴いた中国共産党最高指導者の虚像

2020年2月6日発信。
産経新聞に掲載されたSekihei氏の連載コラムを取り上げ、新型コロナウイルス拡散阻止をめぐる中国共産党の対応、習近平国家主席と李克強首相の役割、WHO事務局長テドロス氏との会談、そして危機対策における習主席の「敵前逃亡」と権威失墜を論じる。
人民日報が習主席の発言を隠蔽したことにも触れ、中国共産党政権がこの危機を乗り越えられるのかという疑問を提示する。

2020-02-06
翌日の人民日報では習主席の件の発言が完全に隠蔽された。
しかし全てはすでに手遅れ、危機対策における習主席自身の一連の言動によって、権威失墜はもはや避けられない
以下は今日の産経新聞に、「敵前逃亡」で権威失墜の習主席、と題して掲載された、石平さんの連載コラムからである。
石平さんは北京大学哲学部に入学、神戸大学に留学して日本に帰化した人である。
彼が日本に帰化した契機は友人に誘われて訪れた嵐山で天啓に打たれるように日本の真髄に触れたからである。
世界有数の中国通として評論活動の傍ら、今は、日本各地の城の美しさに惹かれてカメラと一緒に日本中を旅している。
私と読書家の友人が、数年前、紅葉が見頃に入った東福寺を訪れた帰途、丁度、参観しようと訪れた彼とバッタリ会ったのも単なる偶然ではないと私達は思っていた。
先月28日、中国の習近平国家主席は北京で世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長と会談した。
当日の中央テレビ局ニュース番組は当然、それをトップニュースとして放送したが、習主席は会談の冒頭、問題となっている新型コロナウイルスの拡散について、「中国人民が(拡散阻止のための)厳粛な戦いを展開している」と述べ、「私は終始、自ら指揮をとり、自ら手配を行っている」とも語った。
多くの中国国民はこのセリフを聞いたとき、大きな違和感を覚えたであろう。
同25日の共産党政治局常務委員会議で、党中央の「疫情対策指導小組」、すなわち新型コロナウイルス拡散阻止の「対策本部」が新設された。
その「組長」に就任したのは李克強首相である。
26日、李首相の主宰で「指導小組」の全体会議が開かれ、翌日李首相は自ら武漢入りし拡散阻止作戦の陣頭指揮をとった。
この経緯から見ると、「私が指揮をとって手配を行った」という習主席の語りは事実にそぐわないことが分かろう。
指揮をとっているのは李首相の方である。
習主席はなぜテドロス事務局長に向かって、そしてテレビを見る全国民の前で、そんなウソをつくのか。
実はそこにこそ、今回の危機対策における習主席の大いなるジレンマがあるのである。
「疫情対策指導小組」が党中央で設立されたとき、本来、習主席自身がその「組長」になると思われた。
国家の一大事への対処にあたっては党と国家の最高指導者であり、軍の最高司令官でもある習主席こそが、危機対処の司令塔となるべきであろう。
しかし前述の通り、「組長」に就任したのは李首相である。
習主席は今まで、「中央財経指導小組」組長、「中央外事工作指導小組」組長のほかに十数の「組長」を兼任しているが、有事のときの 「疫情対策指導小組」の組長にだけは、どうしてもなりたくなかったらしい。
もちろん多くの党員幹部や国民の目には、それが習主席の「敵前逃亡」だと映っている。
まさに、肝心の時の逃げの一手である。
これによって、「責任感の強い偉大なる指導者」として振る舞ってきた習主席の虚像が一気に崩れかけているのである。
その一方、危機に際して国家の存亡を背負った李首相に対する評価は高まった。
危険地の武漢に入って医療関係者などを激励する場面がテレビやネットで映されると「逃亡」の習主席とは対照的に、李首相が「時の英雄」となって国民からの喝采を浴びているのである。
独裁志向の強い習主席にとって、それが政治的に大変まずい状況であることは言うまでもない。
だからといって、今さら李首相に取って代わって「指導小組」の組長を引き受けるのは既に遅い。
結局、習主席は「敵前逃亡」のイメージを払拭して何とか自分の権威とメンツを保つために、冒頭の「自らが指揮をとっている」発言を行ったわけだが、それに対する国内の評判はなおさら悪い。
習主席は責任を李首相に押し付けながら手柄だけを横取りする「卑怯な指導者」として認識されてしまうだろう。
それが分かったのか、翌日の人民日報では習主席の件の発言が完全に隠蔽された。
しかし全てはすでに手遅れ、危機対策における習主席自身の一連の言動によって、権威失墜はもはや避けられない。
最高指導者の習主席がこのありさまならば、中国共産党政権は果たして、この危機を乗り越えられるのだろうか、と疑問を感じるのである。

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