官製メディア「コロナ制御」の嘘――農民工を工場へ戻す中国共産党の非情

2020年2月、産経新聞の矢板明夫氏の連載「中国点描」をもとに、中国共産党が新型コロナウイルスを「制御しつつある」と宣伝しながら、農民工を半ば強引に沿海部の工場へ戻していた実態を読む。刑務所での集団感染、全人代延期、習近平指導部の自己保身から、中国官製メディアの嘘を検証する。

2020-02-26
遠く離れた複数の刑務所の受刑者が同時に感染することは考えにくく、人数が増えすぎて隠し切れなくなり、ようやく発表した可能性が高いといわれている。
以下は今日の産経新聞に、官製メディア「コロナ制御」の嘘、と題して掲載された矢板明夫の連載コラム、中国点描、からである。
矢板明夫は、当代最高の記者の一人で、経歴も相まって、世界有数の中国通である。
2月23日午前9時過ぎ、中国西南部貴州省の省都、貴陽から東南沿海部の浙江省温州に向かう特別列車が出発した。
マスク姿の貴州省出身の農民工計853人が乗車。
普段なら約700元弱(約1万1千円)するチケットは無料だが、車内での移動は制限され、仲間同士でトランプなどのゲームをすることも禁止された。
また、乗車と下車時に医療スタッフによって体温が測られることも義務付けられた。
新型コロナウイルスの感染を予防するためだという。
2月中旬から下旬にかけて、この列車と同じように農民工だけを乗せた飛行機や大型バス多数が各地を出発した。
これまで少なくとも数百万人を内陸部から沿海部に運んだという。
中国では1月25日に旧正月(春節)を迎えた。
故郷に帰省した出稼ぎ労働者たちは本来なら2月初めに工場に戻ってくるが、新型コロナウイルスが各地で蔓延した影響でなかなか戻らず、生産を再開できない工場が多かったと中国メディアが伝えている。
近年の米中貿易戦争で、中国の製造業はすでに大きな打撃を受けており、コロナウイルスによる生産中断が長引けば、倒産する中小企業が続出するのは必至といわれている。
さらに中国に進出する外資系企業はこれを機に国外に逃げ出す可能性もある。
政権安定のために、何とか経済成長を維持したい習近平指導部は焦り、2月中旬から「生産再開を呼び掛けるキャンペーン」を開始した。
官製メディアを使って「コロナウイルスはすでにコントロールされつつある」「感染の拡大状況は改善されている」などと宣伝し、農民工を工場に戻すように交通費の補助などの支援策なども打ち出した。
中央から圧力を受けた地方指導者の中には、難色を示す労働者を「拘束する」などと脅して半ば強引に列車に乗せた者もいるという。
2月中旬以降、中国政府が毎日発表する新たな感染者数は少しずつ減少しており、「新感染者ゼロ」の省と市も増えている。
日本や韓国、イタリアなど海外で感染が拡大しているのに、中国の各地で感染が抑えられていることに対し、「数字は嘘ではないか」と疑問視する声は少なくない。
例えば中国の司法省は21日、山東、浙江、湖北各省の4つの刑務所で受刑者ら計505人が感染していることを発表した。
遠く離れた複数の刑務所の受刑者が同時に感染することは考えにくく、人数が増えすぎて隠し切れなくなり、ようやく発表した可能性が高いといわれている。
同じように全国各地で隠蔽された感染者は多数いるといわれている。
貴州省の農民工を乗せた特別列車が出発した翌日の24日、習近平氏ら指導者が出席する予定の今春の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の開催延期が発表された。
約3千人の代表が1ヵ所に集まり会議をすることは「感染するリスクが高い」というのが理由らしい。
農民工の安全は軽視するが、自分の身の安全を何よりも大事にしているのが共産党指導者だ。
「コロナウイルスはすでにコントロールされつつある」という官製メディアの宣伝は嘘であることが裏付けられた形だ。
(外信部次長)

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