中国が国際電気通信連合を握る危険――「泥棒が警視総監になる」ような国連機関支配とサイレント・インベージョン
中国によるオーストラリアへの経済的威圧、国連専門機関への影響力拡大、ITUを通じた5G・サイバーセキュリティ分野への関与、そして「千人計画」による海外研究者の獲得を検証する。山岡鉄秀氏の論考と有村治子参議院議員の国会質問から、中国の「目に見えぬ侵略」の構造を明らかにする。
2020-07-04
世界で最もサイバー攻撃を仕掛けている国が、サイバーセキュリティについて専門的な技術援助を行う機関のトップを占めているとは、泥棒が警視総監になるようなものではないのか。
以下は、月刊誌『WiLL』今月号に「目に見えぬ侵略が可視化されるとき」と題して掲載されている、山岡鉄秀氏の連載コラムからである。
山岡鉄秀氏は、国際社会における韓国の反日プロパガンダの象徴である慰安婦像のオーストラリア設置を阻止してくれた。
つまり、彼もまた最澄が定義する「国宝」である。
見出し以外の文中強調と*~*は私。
『目に見えぬ侵略――中国のオーストラリア支配計画』(小社刊)が、発売2週間未満で5刷の売れ行きを見せている。
『目に見えぬ侵略』は、オーストラリアのチャールズ・スタート大学のクライブ・ハミルトン教授が、中国がオーストラリアに仕掛けた乗っ取り計画の実態を子細に調べて告発し、複数の出版社に断られながら、ようやく出版に漕ぎつけた警告の書『サイレント・インベージョン』の邦訳版である。
地政学者の奥山真司博士が2年の歳月をかけて邦訳し、不肖、私が監訳、すなわち全体の査読を務めた。
『サイレント・インベージョン』がオーストラリアで出版されたのは2018年であり、大きな反響を呼んだものの、多くのオーストラリア人にとって厳しい現実と向き合うことは億劫だった。
いずれの国も原則的には経済最優先であり、オーストラリアも中国との取引で得た富を手放さざるを得ない事態を想像したくなかったのだ。
しかし、新型コロナウイルスのパンデミックがウェイクアップコール、すなわち警鐘となった。
独善的で自己中心的な中国のやり方を見せつけられ、経済的利益のために中国の行動を容認し続ければ、本当に国を乗っ取られかねないことが誰の目にも明らかになったのだ。
覚醒したオーストラリアだったが、たちまち傲岸不遜な中国の「いじめ」を受けることになった。
新型コロナウイルスの発祥について独立調査を主張するやいなや、中国はいつもの経済的脅迫に出てきた。
在豪中国大使は、「中国の国民は、オーストラリアの牛肉を食べたくないかもしれないし、オーストラリアのワインを飲みたくないかもしれない。中国人の親たちは、子供たちの留学先としてオーストラリアが適切かどうかを考え直すかもしれない」と発言した。
オーストラリア側が「独立調査の要求は合理的なものだ」と反発すると、中国はたちまち具体的な制裁を開始した。
オーストラリアの食肉加工業者4社からの輸入を停止し、大麦の輸入に80%の関税をかけ、鉄鉱石を港で止め、発電所に豪州産の石炭を使わないよう指示するなどの措置に出たのである。
従来のオーストラリアなら、ここで屈していた可能性がある。
「中国を怒らせても、何の得にもならない」という敗北主義が支配的だったからだ。
しかし、サイレント・インベージョンの脅威に目覚めたオーストラリアは、毅然とした姿勢を崩さなかった。
そこには、「国家の主権を守る」という強い意志がうかがえた。
しかし、中国の嫌がらせは続いた。
中国政府は、「オーストラリアでは新型コロナに関連して中国人への人種差別が発生しているので、旅行しないように」と国民に通告した。
オーストラリア側は即座に、「事実無根だ。オーストラリアは世界で最も成功している多文化社会であり、中華系オーストラリア人は重要な貢献者である」と反論した。
しかし、中国は重ねて「オーストラリアの政治家は、人種差別の急激な高まりを無視している」と糾弾した。
気に食わない相手を「人種差別主義者」「外国人恐怖症」「冷戦メンタリティ」などとレッテル貼りして攻撃するのが、中国の常套手段である。
*蓮舫を始めとした立憲民主党等の野党の政治屋たちも、全く同様だろう*
中国の報道官は、さらに続けた。
「オーストラリアにいる中国人の多くが口頭で侮辱され、暴力をも振るわれた。一部の中国人の不動産は破壊され、職場では不公正な扱いを受けた」
明らかな誇張、または捏造だが、政府がこのように発信すれば、一般の中国市民は怯えてしまうだろう。
それが狙いだ。
さらに、中国共産党配下の英字新聞『グローバル・タイムス』は、6月初頭にオーストラリアのモリソン首相とインドのモディ首相の間で交わされた防衛協定にも不快感を示し、次のように書いた。
「オーストラリアとインドの関係強化、特に軍事面での協力は、インド太平洋地域全体の戦略的パターンの変更につながるだろう。そのような変更は平和と安定を脅かし、地域に対決的な雰囲気を醸成するだろう」
このように、中国は弱いとみなす相手には、とことん抑圧的な態度で恫喝してくる。
中国が支配する国連機関
オーストラリアのテレビ討論番組を見ていて、ある不安が私の胸をよぎった。
「オーストラリアは中国という巨大独裁国家と戦えるのか」というキャスターの問いかけに、引退したアレクサンダー・ダウナー元外相が、こう答えたのだ。
「中国が横暴になるほど、オーストラリアには自由民主主義国家の味方が増える。たとえば日本や韓国、インドだ」
確かに、自由民主主義国家が一致団結して、独裁国家中国に立ち向かわなければならない。
しかし、日本にその覚悟があるだろうか。
それどころか、中国の脅威をまともに理解している国会議員が何人いるだろうか。
そのように感じていた矢先、初めて日本の国会で、中国の脅威に関して正鵠を射る質問を聞いた。
自民党の有村治子参議院議員が、6月2日に財政金融委員会で行った質問である。
有村議員は、真正面から中国と世界がどのように向き合うべきかという構造的問題を提起した。
有村議員はまず、前述したオーストラリアのみならず、中国が気に食わない相手に対して食料の輸入を止めるなどの措置を取り、恫喝する事実を指摘した。
次に、中国によって影響力を行使されている国連機関が、WHOだけではないことを指摘した。
有村議員の資料によれば、15ある国連専門機関のうち、WHO以外の4機関のトップを中国出身者が占めていた。
・国際連合食糧農業機関(FAO)
・国際民間航空機関(ICAO)
・国際電気通信連合(ITU)
・国連工業開発機関(UNIDO)
なかでも国際電気通信連合、ITUは、次の機能を有する極めて重要な機関である。
・有線・無線の電気通信の利用に関する国際的秩序の形成に貢献する。
・無線周波数スペクトルや衛星軌道の管理に責任を持つ。
・サイバーセキュリティ等について、専門的な技術援助を行う。
・次世代通信規格、5Gの技術性能や仕様を策定する。
既知のとおり、中国はファーウェイやZTE、中興通訊を使って、5Gネットワークの世界制覇を狙っており、アメリカは必死にそれを阻止しようとしている。
中国による5Gネットワークの寡占を許してしまえば、中国に生殺与奪の権を与えてしまうことになるからだ。
その攻防の最中、中国はいつの間にか、その5Gの規格を策定する国連機関を押さえていたのだ。
これを油断と言わずして、何と言うのか。
さらに、世界で最もサイバー攻撃を仕掛けている国が、サイバーセキュリティについて専門的な技術援助を行う機関のトップを占めているとは、泥棒が警視総監になるようなものではないのか。
中国「千人計画」の脅威
有村議員はさらに、中国が進める「千人計画」についても言及した。
「千人計画」とは、中国共産党中央委員会が2008年12月に決定した海外人材招致プログラムであり、海外で博士号を取得している人材など、ノーベル賞受賞者を含む世界トップレベルの人材を、破格の待遇で中国国内に招致することを目標としている。
このプログラムに参加する条件には、参加している事実を秘匿することが含まれているとされ、アメリカのみならず、日本の研究者も対象にされている。
トップクラスの研究者には、約540万円の月給に加えて年間生活費約1500万円が支給され、妻子の仕事や教育の面倒も見るという。
2020年1月には、ハーバード大学化学・化学生物学科長のチャールズ・リーバー教授が逮捕され、起訴された。
米国司法省の発表によれば、リーバー教授は、米国国防総省および国立衛生研究所から資金支援を受けながら、中国の「千人計画」に参加し、資金支援等を受けていたことを申告しなかったとして、虚偽申告容疑で逮捕されたとのことである。
中国は、世界中のトップ頭脳を買い集めようとしていたのだ。
日本は、オーストラリアなど西側先進国とともに、中国のサイレント・インベージョンと戦えるのか。
この問いは、2020年当時だけの問題ではない。
国家の主権、通信インフラ、技術標準、研究機関、国際機関がどの国の影響力の下に置かれるのかという問題は、自由民主主義社会の将来そのものに関わる問題なのである。