2030年には中国の核弾頭は現在の350発から1000発になる。そのことがもたらす危機を安倍氏が説明した。

2030年には中国の核弾頭は現在の350発から1000発になる。そのことがもたらす危機を安倍氏が説明した。
2021年12月11日
以下は12月9日に発売された週刊新潮の掉尾を飾る櫻井よしこさんの連載コラムからである。
本論文も彼女が最澄が定義した国宝、至上の国宝である事を証明している。
本論文の読者は安倍晋三氏が稀代の政治家であり、世界有数の政治家である事を再認識したはずである。
見出し以外の文中強調は私。

中国が慄いた「台湾有事」の安倍発言

「昨日(12月2日)、たまたま一緒に食事をしました。菅さん、萩生田さん、加藤勝信さんと。大変元気な姿を見て嬉しくなりました」3日の「言論テレビ」で安倍晉三元首相は菅義偉前首相についてこう語った。
安倍・菅両氏の間に隙間風が吹いているとの言説については、「私と菅さんとの人間同士、政治家としての絆は他の人にはわからないでしょう。相当強い絆で結ばれていると私は思っていますから、隙間風の吹く隙間もないと思います」 
安倍氏は、自身が病気で急に退任したとき菅氏が後を引き受けてくれたことへの感謝を、言葉を尽くして語った。
「菅さんは本当に立派な仕事をされた。不可能と思われたワクチン接種一日100万回も、多いときは170万回くらいまで行き、アメリカを追い越した。私に対しては寝食を忘れて官房長官職に打ち込んでくれた」 
菅氏に届けたい言葉である。
安倍氏は約10年振りに派閥に戻った。
党内最大派閥の長としての氏の発言には確実に世界の政治を動かす力がある。
たとえば台湾問題だ。
習近平国家主席の下での台湾侵攻の可能性について、世界中であらゆる分析がなされている。
そうした中、安倍氏は12月1日、台湾の国策研究院主催のシンポジウムで「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事である。この点の認識を習近平国家主席は、断じて見誤るべきではない」と語った。 
同発言への中国側の反応の激しさは驚く程だった。
外務次官補、華春瑩氏は1日の夜中に垂秀夫駐中国大使を呼び出し、「極めて誤った言論で中国の内政に乱暴に介入した」と、「厳正な申し入れ」をした。
「批判への免疫力」 
中国外務省の汪文斌報道官は「中国人民の譲れない一線に挑む者は誰であれ、必ず頭をぶつけ血を流す」と非常識なコメントを発表し、国務院の馬暁光報道官は「安倍晋三は黒を白と言いくるめる」と非難した。
台湾問題への国際社会の支援を、中国がどれ程恐れているかが見えてくる。
安倍氏が笑った。
「私は総理を退任し、一国会議員です。その私の発言にこのように注目していただいたことは大変光栄です。私はこれまでに様々な批判を受けてきましたから、批判への免疫力は強い。これからも言うべきことは言わなければと思っています」 
注目すべきは中国共産党の機関メディア、環球時報の報道だ。
彼らは「安倍発言について、岸田首相は事前に知らされ、黙認していたはずだ。岸田は安倍の影響を振り払うことができない上、台湾カードで米国の機嫌をとり続けなければならない」と報じた。
たしかに岸田首相は発言内容を事前に知っており承諾したと見てよいだろう。
安倍氏はセミナーの前月、官邸で岸田氏と会っており、今回の発言は首相と元首相の高度な政治的連携プレーだったと思う。
安倍氏が台湾問題で踏み込んだ背景について説明した。
「台湾海峡の平和と安定の重要性は国際社会が共有する認識です。しかし、10月には4日間で中国の戦闘機が149機、台湾の防空識別圈に侵入しました。中国はこの30年間で軍事費を42倍に増やし、台湾に圧力をかけている。万が一、武力で現状変更を試みて台湾有事になれば、日本有事です。(与那国島などの)先島諸島は距離にして100㌔㍍余り、平和安全法制上の重要影響事態になり、日米同盟に関わってきます。即ち台湾有事は日米同盟有事に発展する。こうしたことをはっきり相手に示すことで、偶発的な衝突を防ぐことにつながります」 
安倍氏の発言は国際社会の思いを代弁するものだ。
本来なら林芳正外相が発信してもよいメッセージであろう。
だが安倍氏が発言したことで岸田政権に直接の負担を与えることなく、日本国の立場を示す役割を担った。
その言葉に台湾の人々だけでなく日本国民も安堵したはずだ。
中国の軍事的脅威は、それほど身近に追っている。
中国の軍事力の急拡大、とりわけ核弾頭の急増によって生じる新たな危機について安倍氏が説得力ある説明をした。
現在米軍の力は中国軍を圧倒しているが、アメリカは全世界に展開しているため日本や台湾が位置するこの「戦域」では中国の軍事力の方が「相当優勢」だ。
日中の軍事力の比較では、水上艦艇、潜水艦、戦闘機などで中国はわが方の倍近くだと安倍氏は指摘する。
だが、日台周辺の戦域で中国が優勢であるとしても、地球規模の「戦略域」で米国が圧倒的優勢を保っていれば中国は手を出せない。
その戦略域での力の優劣を決めるのが核兵器だ。
日本を狙うミサイル
中国が猛烈に核弾頭を増やしていることは米国議会や国防総省がすでに明らかにしている。
2030年には中国の核弾頭は現在の350発から1000発になる。
そのことがもたらす危機を安倍氏が説明した。
「米国は5500発の核弾頭を有していますが、新START条約で配備できるのは1550発に制限されています。中国が1000発の核を持って配備すれば、米中の力が均衡に近づきます。戦略域で均衡に近づき、戦域で力が上回っていたら、冒険的なことに挑む懸念があるというのが専門家の指摘です」 
中国が冒険主義に走る危険性に走る危険性がうまれつつあるのだ。
しかも脅威は核だけでなく、サイバーや電磁波、宇宙の領域にもひろがる。
こうした状況下で日本は何をすべきか。
何よりもまず日本国の守りを固めることだろう。
そのためには中国が展開する列島線戦略を阻止しなければならない。
中国に第一列島線を押さえられれば、米軍は日本周辺にも台湾周辺にも近づけない。
だからこそ、日米が協力して第一列島線を押さえることだ。
「第一列島線を守るには、基本として中距離ミサイルの配備が必要です。そのミサイルを米国に頼るのでなく、わが国のミサイルを配備すべきです。三菱重工にはその技術があります」と安倍氏。 
中国は日本を狙うミサイル2000基を配備済みだ。
北朝鮮もわが国を狙うのに十分な千㌔超の弾道ミサイルを保有する。
韓国は米国との協議でこれまでミサイルの射程を800㌔以下に制限していたが、今年5月、その制限を撤廃した。
韓国のミサイルも日本を射程にとらえることになったのである。
日本周辺はいま、地球上のどの地域よりもミサイルの密度が高い地域なのだ。
自力で国を守るために、日本製のミサイルを配備するのは理に適っている。
十分な力を持って初めて国民の命も国土も守れる。
安倍氏の主張を、朝日新聞などは恐らく激しく批判するだろう。
しかし、現実を見据えた安倍氏の主張は正しく、岸田首相も支持するだろう。

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