消費増税は「一番弱い庶民」との戦い—古賀茂明が語る日本経済と政治の病巣
元経産官僚の古賀茂明氏が、日本の政治と経済の現状を厳しく批判します。政治主導の失敗、官僚機構の閉塞、そして安易な消費増税に警鐘を鳴らし、真に戦うべき相手は「一番弱い庶民」ではなく、国の成長を阻害する既得権益だと訴えます。未来に向けた成長戦略の必要性と、責任ある政治家の役割を問うインタビュー記事です。
消費増税をするのに戦う相手は一番弱い庶民だ。…朝日新聞8月13日3面より
2011年08月13日
責任ある政治家よ既得権と戦え 経産省「待機ポスト」に1年半超
古賀茂明さん(55)
こが しげあき 1955年生まれ。東大法学部を卒業後、80年、通商産業省(現経済産業省)入省。産業再生機構執行役員、経産省経済産業政策課長などを歴任。09年12月、異動待ちポストの同省大臣官房付に移ったまま、現在に至る。著書に「日本中枢の崩壊」「官僚の責任」など。
ー「日本中枢の崩壊」を出版しました。「中枢」に何が起きているのですか。
民主党政権が政治主導に失敗し、政治が大きな方向性を決め、官僚がスピーディーに実行するという役割分担が機能しなくなっている。東日本大震災という前例のない大災害に対応するには、新しい政策を考える創造性と、そのリスクに責任を負う覚悟が必要だが、官僚には両方ともできない。
バス会社に例えると、政治家は経営者、官僚は運転手。自民党時代はバスの運転手に運転を任せっきり。順調に運行しているように見えても全体の路線網に不備があり、いろんな場所で人々が置き去りになった。
民主党政権に代わって「オレたちが乗る」とバスの運転を始めたが、いろんな所で事故を起こして混乱してしまっている。運転は官僚に任せ、大臣は路線図の書き換えを行うという役割分担の変更が必要だ。
-民主党は、なぜ改革に失敗したのでしょうか。
大改革をしようと思えば、官僚の抵抗は当然予想できる。それなのに官僚と戦うための優秀なスタッフをそろえず、体制を整えなかった。民主党の首相には本当にやりたいことがなかったのではないか。次の首相には「自分のやりたいことをはっきりさせてから首相になってください」と言いたい。
-「大増税すれば日本経済は奈落の底へ落ちていく」とも警告しています。
日本の財政破綻が近いと言われているが、役人からは消費税増税という答えしか出てこない。だけど44兆円もの歳入不足を埋めるには消費税を25%にまで上げることが必要。どう考えても消費増税で財政再建なんてあり得ない。
必要なのは将来、若者が稼いで税金を払える経済の仕組みにする成長戦略だ。民主党も自民党も成長分野として農業、医療、再生可能エネルギーを挙げているが、農業にも病院経営にも株式会社は自由に参入できない。
電力会社も地域独占だ。優秀な企業が活躍できる仕組みをつくるには、農協や農水省、医師会や厚労省など非常に強力な組織と戦わなければいけない。消費増税をするのに戦う相手は一番弱い庶民だ。本当に戦うべき相手は既得権にしがみつき成長を阻害している人たち。そこと戦える政治家こそ責任ある政治家、責任政党だ。
…後略。