ではこの際、スパンの長い外交を考えてみよう。日本ならそれができる。どこからも借金をしていないからだ。

2024年05月01日

アイデンティティを言いだすとこんな話になって、国家という名称が使えなくなる、とは島国育ちの日本人には想像を超えた話だが
2018年04月30日
以下は4/26に発売された月刊誌Willに掲載されている日下公人氏の連載コラム「繁栄のヒント」からである。
今回のタイトルは「内臓が問題の時代」である。

トランプ大統領が登場してから、アメリカのインテリはすっかり静かになった。 
「新しい世界をつくろう」という呼びかけは消え、「新しい世界はかくあるべし」という理想や夢を語る声もない。 
それに代って、「北朝鮮を制裁する」という声が出てきた。
実力があるアメリカが言うのだから実現性は十分あると思うが、それがあと一歩というところで進まない。
「進め!」という声もない。 
日本の安倍首相も、「では日本がやる」とは流石に言えない。
日米韓中の四ヵ国で圧力をかけようというところで止まっている。
このまま貿易と金融を制限しているだけでも十分効果はあるのだから何も焦ることはない。
3年くらい続けてみるといいと思うがそういう声もない。 
これまで世界各国はスパンの短い外交を重ねてきたので、それがクセになっているらしい。
どこの国でも内閣の寿命が短くなっているので自然に仕事の期限も短く考えるようになっている。 
ではこの際、スパンの長い外交を考えてみよう。
日本ならそれができる。
どこからも借金をしていないからだ。
むしろ融資や投資ならどこの国に対してもたくさんしているから、条件を明示して「かくかく、しかじかの国に対しては今後融資も投資もしない」と声明を出して実行すれば、多分原爆投下と同じくらいの効果がある。 
それを首相直轄の“世界再生政策”とても名付けて実行すればよい。
折り紙でツルを折るよりよほど確かな効果が期待できる。 
日本もそれだけの金持ちになったと思えば、国民は貯金した甲斐があったというものだが、今は外務省と経産省に勝手に使われている。 
蒋介石は友人から、「日本との戦争と中国共産党征伐の二つの問題にどう対処する気か」と訊かれて、「中国共産党の征伐は『内臓の病気』だが、日本との戦争は単なる『皮膚病』」と答えた。 
正にその通りで蒋介石は中国共産党との戦いに負けて台湾に逃げ二度と戻ってこなかった。 
21世紀の今、予想される戦争はいろいろあるがこの分類を使って考えてみよう。 
まず内臓に達する病はたくさんある。 
アメリカでは白人至上主義との戦いがすでに内臓に食い込んでいる。
貧富の格差も同じである。
宗教的原理主義者との戦いはこれからはじまる。
アメリカの各州と連邦政府の関係は、独立戦争の昔に戻るかもしれない。 
「英語ができないアメリカ人」や「白人でないアメリカ人」はいずれ過半数に達する。 
それでもアメリカ人として誇りを持って生きてゆくために必要なものは何か。 
これは“内臓病対策とアメリカ”という問題である。
そのときはカリフォルニアは日本に―フロリダはスペインに―分裂してゆくというのも一案になる。 
ま、しかしそんなことが問題になるようなときは同じ問題がヨーロッパにも登場しているだろう。
中国本土にも。 
中国には雲南行省など、行省がいくつかあったが、これは元の時代に中国語による統治を諦めたところという意味らしい。
いやはや。 
アイデンティティを言いだすとこんな話になって、国家という名称が使えなくなる、とは島国育ちの日本人には想像を超えた話だが、別の言い方をすれば日本は歴史が古いから、トランプが言う“国境の壁を高くする平和”はもう実現しているとも言える。 
21世紀はどこの国も内臓が問題の時代になる。
そのとき日本の病気が一番軽ければ日本は何かを世界のために言わねばならない。 
400年続いた帝国主義に代って登場する新しい世界を見るメガネは、実はどこの国にも備わっていると思う。
たとえば「温故知新」だが、「郷土再生」「国粋主義」「国家分割」「小国家主義」などを見直してみてはどうだろうか。 
北朝鮮が国連を敵にまわして頑張っている姿をみると、「相互確証破壊による均衡」の考えは「小国による世界分裂と均衡」の時代へ向うように見える。 
サテ日本は?

くさか きみんど 1930年生まれ。
東京大学経済学部卒。
日本長期信用銀行取締役、旭ソフト化経済センター理事長、東京財団会長を歴任。
現在、日本ラッド、三谷産業監査役。最新刊に『ついに日本繁栄の時代がやって来た』(ワック刊)。

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