現在使われている中国語・朝鮮語の法律用語の大半は明治初期に日本人が訓のある日本語の長所を駆使して作ったものだ

2024年06月08日
明治期、日本は英独仏の法律用語を高精度に翻訳し、現地語で西洋法体系を構築した世界唯一の国家となった。現在、中国語・朝鮮語の法律用語の大半は日本人が作り上げた概念であり、日本の法制史がアジア近代化の基礎を与えたと指摘する。さらに、法学部軽視・ロースクール失敗・ガバナンス議論の空洞化により、明治以来の日本の法学の誇りが急速に失われつつある現状を鋭く批判する。

現在使われている中国語・朝鮮語の法律用語の大半は明治初期に日本人が訓のある日本語の長所を駆使して作ったものだ。日本は現地語で西洋流の法律学を構築・運用できた唯一の国である
2020年02月03日

以下は今日の産経新聞に、ゴーン事件にみる法の誇りと劣化、と題して掲載された、早稲田大学名誉教授上村達男の論文からである。
見出し以外の文中強調は私。

日産自動車前会長、ゴーン被告の逃亡先での発言は、脱走犯の見苦しい自己弁護にすぎない。
日本企業のトップが日本法を守らないというのであるから法治国家日本の全否定を意味するが、どこか快哉(かいさい)を叫ぶかの空気が内外にある。
これには一方で明治以来形成されてきた日本法への誇りを抱きつつも、このところの法状況の著しい劣化を思わざるを得ない。  

「法」未熟なら収奪対象に 
非西欧国家にとって「法」「規範」は乗り越えることの難しい大きな壁だ。
軍事力と経済力までは何とかいけても、長年の失敗の経験がものを言う「法」の壁は分厚く、ナイーブな後発国はここで、この問題を熟知する先進諸国による収奪の対象となる。 
日本は明治期の不平等条約撤廃という外圧の下で、短期間に英独仏語の法律用語を日本語にして法典編纂事業を実施し、六法の制定、司法制度・検察制度といった市民法の基本原理を整備していった。
現在使われている中国語・朝鮮語の法律用語の大半は明治初期に日本人が訓のある日本語の長所を駆使して作ったものだ。
日本は現地語で西洋流の法律学を構築・運用できた唯一の国である。 

米国もフランスも外国法をほぼ学ばない。
130年ほどの歴史を有する日本の大学の多くは法律専門学校として創立された。
明治以来の日本の法整備の速度と西洋法の理解の高さには、今もって多くの弱みを抱えながらも強い誇りを覚えてきた。 
証券市場を使いこなす会社制度である株式会社は、どの国も必ず証券市場で失敗してきた。
本来の株式会社制度は、株式価格の公正確保の仕組みが一体となった法制度であるべきところ、特にバブル崩壊後には病人対策としての規制緩和路線が安普請を意味することを理解できなかった。 
欧州の行き方を選ぶなら、事前規制型の仕組みを取り戻し、gentlemen’s ruleや自主規制、プリンシプル、各種のコード等を制定法並みに扱える仕組みを目指すべきであった。 

緩和は真似ても規律真似ず 
米国型の最大自由を追求するなら、連続的に大量に生ずる不正を連続的に処理する仕組みに不可欠な、おとり・盗聴・覆面捜査・司法取引(行政の準司法機関化)、不正利得の吐き出し命令、民事制裁、情報密告への報奨金制度(bounty)等々がなければ持たないのだが、日本は緩和は真似ても、規律は真似ないできた。 
米国並みの制度があれば、業界から永久追放となり、得た利益の何倍かをとうに取り上げられているはずの人物の多くが、温存された資金を使い、もの言う株主などといわれ、若者に教訓を垂れている姿を見なければならないのが今の日本である。 
自由が横溢し、大量の不正を時々刻々処理する仕組みがなければ、市場犯罪に不向きな検察による一発勝負的な摘発に頼るしかなくなる。
もともと必ず勝たねばならぬという姿勢が強い検察は、複雑な事案も、外為法、税法、有価証券報告書虚偽記載罪などの立証しやすい形式犯にしてしまいがちであり、その分不正の本体が見えてこなくなる。

実質犯である会社法の特別背任罪に判例が乏しく、立証に苦労するのは自業自得といえる面がある。 
このところ日本では、会社法をめぐる立法も議論も影が薄くなっており、ガバナンスコードの話ばかりだが、違反してもどうということがないため、会社法の専門知識のない者がガバナンスの専門家であるかにまかり通っている。
ロースクール構想の失敗は、法学部の軽視、法学研究者養成の衰退を招き、法制審議会・法制局の軽視等と相まって明治以来の日本の法律学の誇りは日々消えつつある。 

日本は小太りの美味しい獲物 
この世界を熟知している海外の専門家からすると、日本は法にナイーブな小太りの美味しい獲物である。
英国のように、株主の属性・素性情報請求権もない日本で、株主価値最大化が強調され、「もの言う資格」の怪しい者との対話や彼らによる議決権行使を疑わないお人好しぶりだ。 
ゴーン被告は日本の法レベルを内心嗤っていたところ、司法取引が急に施行されたとは話が違う、といったところが今回の逃亡劇の実態だろう。 
日産の経営を改善させた名経営者と思い込んでいる向きが多いようだが、それは株価を上げるために労働者を大量に解雇し、大きな工場を閉鎖することが正義という誤った発想による。 
今日、欧州に続いてあの米国も株主第一主義を放棄しようとしているときに、「安易な追随避けよ」(日経新聞「経済教室」昨年12月18日)との主張が大きく取り上げられている。
問題はその主張者がその主著で述べる次のこと、「望ましい会社法とは便益から費用を差し引いたネットの便益がなるべく大きくなるという意味で効率的であること」という、多様な人間の価値観を経済価値でのみ測る発想がそもそも誤りであったことにある。


2024/6/7 in Nagoya

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