「台湾有事は日本有事」——高市首相答弁が暴いた中国の戦狼外交と歴史戦の全貌
本稿は、下條正男氏による「台湾有事は日本有事」という安全保障の核心概念をめぐる詳細な分析である。2021年に安倍晋三元首相が発した言葉は、日本の安全保障議論に不可欠な用語となった。そして2025年11月7日の国会で、高市早苗首相が「台湾有事が武力行使を伴う場合、存立危機事態になりうる」と明言したことで、中国が強く反発し、渡航自粛・留学慎重化・日本産水産物の市場否定など、露骨な戦狼外交を展開した。
中国は台湾を「不可分の領土」とみなし、尖閣諸島をも台湾の「付属島嶼」と位置づけて領有を狙ってきた。これは「台湾有事=日本有事」の現実を裏付けている。加えて、中国は韓国による竹島侵奪モデルを参照し、日本への圧力を強めている。
本稿は、民主党政権時代の外交的失策、尖閣・竹島・日本海呼称問題に対する情報発信の不足、日本が講じるべき戦略的反制策などを明らかにし、日本の主権と安全保障を守るための具体的課題を浮き彫りにする必読の論考である。
以下は今日の産経新聞オピニオン欄に、【台湾有事は日本有事ということ】と題して掲載された下條正男氏の論文からである。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
2021年12月、安倍晋三元首相が首相退任後の講演で「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と発言して以来、 「台湾有事は日本有事」は日本の安全保障を語る際の必須用語となった。
その 「台湾有事は日本有事」が現実眛を帯びたのは今年11月7日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の岡田克也氏が仮定に基づいて「首相は1年前の自民党総裁選で、中国による台湾の海上封鎖が発生した場合、『存立危機事態になるかもしれない』と発言した。どういう場合になると考えるか」と質問したのに対し、高市早苗首相が「(台湾有事が)戦艦を使って、武力の行使を伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケース」と答弁したことが発端だった。
高市首相の発言の撤回を求めた中国政府は、日本への渡航自粛、日本への留学の慎重な検討を呼びかけ、日本産水産物が中国に輸出されても市場は存在しないと発言するなど戦狼外交の一端を見せた。
それは高市首相の答弁が、2022年10月に「中国共産党第20回全国代表大会報告鬢」で示した習近平政権の台湾問題に対する姿勢に抵触したからだろう。
報告書では『われわれは二国二制度』の実践を全面的かつ的確に推し進め」 『台湾独立』を狙う分裂活動に断固反対し、外部勢力の干渉に断固反対」する。
「台湾問題を解決しい祖国の完全な統一を実現することは、党の揺るぎない歴史的使命」だ。
それは「中華民族の偉大な復興を実現するための避けられない要求」で、台湾問題を解決するためには「武力行使を放棄するとは決して約束せず」としていたからだ。
台湾の武力統一を視野に置く中国は、高市首相の答弁から、台湾有事に際して明白な危険がある「存立危機事態」になれば、日本は集団的自衛権を行使して関与すると深読みしたのだろう。
台湾を「中華人民共和国の不可分の領土」とする中国政府にとって、高市首相の答弁は「中華民族の偉大な復興十を妨げる外部勢力の干渉にも等しかった。
尖閣は「付属島嶼」
日本政府は、1972年の「日中共同声明」で「『台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である』との中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重するとして、台湾については曖昧な態度をとってきた。
高市首相の発言ではそれが一歩進められ、中国側には日本がレッドラインを越えたと映ったのだろう。
そこで中国政府は、今回の高市首相の答弁を「内政干渉」とし、高市首相に発言の撤回を求めたが、それは難しい。
高市首相が発言を撤回すれば中国側の思惑にはまり、拒めば日本に対する恫喝に近い嫌がらせが続くことになるからだ。
その状況は日中双方にとって望ましいことではない。
中国政府は1992年2月に「領海法」を定め、その第2条で中華人民共和国の領土を「台湾およびその付属島嶼(釣魚島、膨湖諸島、東沙諸島、西沙諸島、中沙諸島、南沙諸島)を含む」として以来、日本領の尖閣諸島(中国側名称は釣魚島)を台湾の付属島嶼とし、その領有を狙ってきたが、それこそが「台湾有事は日本有事」だからだ。
竹島侵奪をモデル
2010年9月7日、尖閣諸島周辺海域で、中国漁船が故意に日本の巡視船に衝突する事件が起きた。
この時、民主党政権で外相を務めていたのが岡田克也氏である。
民主党政権時代の外交は、尖閣諸島だけでなく中国が南沙諸島に侵出するきっかけにもなっだ。‐
さらに民主党政権は竹島問題でも失策を犯していた。
菅直人氏の盟友とされた民主党議員が韓国の国会等で 「竹島は韓国領」とし、外相時代の岡田氏も自民党議員が竹島問題に関して質問すると、「韓国は竹島を不法占拠している」とするな発言をかたくなに拒んでいた。
だが尖閣諸島侵奪を画策する中国は、韓国による竹島侵奪をモデルとしている。
今年11月17日、中国外交部の毛寧報道官は、定例記者会見で竹島問題と「領土・主権展示館」に関する質問を受け、「最近、日本の多くの悪質な言動は周辺国の警戒と不満、抗議を誘発している」と答えたと、同日付の韓国の「聯合ニュース」(電子版)等が報じた。
韓国では中国政府が竹島問題を使って間接的に日本批判をして、韓国側に同調したとした。
だが「領土・主権展示館」を開館した日本政府は、尖閣諸島と竹島問題等に対しては「国民世論の啓発、国際社会に向けた発信」に重きを置いた。
そのため日本側の主張はなされているが、中韓の歴史認識の誤りについては触れていない。
10年ほど前、竹島問題等に関連してその「情報発信」に関する会議のメンバーとなり、情報発信をするには研究機関が必要と発言したが、その意見は報告書から削除された。
そこで日本国際問題研究所に提案したのが尖閣諸島と竹島問題、日本海呼称問題のウェビナーである。
それを戦略的に使えば、中韓を牽制できるからだ。
(拓殖大名誉教授、島根県立大客員教授)