異形の中国を世界の常識に——高市政権に問われる対中戦略と情報戦

2025年12月1日付産経新聞フロントページに掲載された櫻井よしこ氏の連載コラム「異形の中国」発信せよは、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)と朝日新聞による「高市首相発言」報道の背景に中国の対日・対米離間工作があると指摘する。
習近平国家主席が台湾併合を権力基盤の中核に据え、歴史の捏造と国際法無視によって戦後秩序を書き換えようとしている現実を「異形の中国」として世界に共有させることこそ、日本外交と高市政権の戦略課題だと訴える。
同時に、日本政府・外務省・在外公館の情報発信の弱さ、対中ビジネス依存と在中邦人リスク、技術流出や中国資本による企業浸食といった脆弱性の克服を求め、官民一体の危機意識と長期戦略の必要性を強調している。

以下は、12/1,産経新聞フロントページに、「異形の中国」発信せよ、と題して掲載された、櫻井よしこさんの定期連載コラムからである。
本論文も彼女が最澄が定義した「国宝」、至上の国宝であることを証明している。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。

米紙「ウォールストリートジャーナル (WSJ)が11月25、27の両日、米中、日米の首脳電話会談を報じた。
総合すると、「中国の習近平国家主席が高市早苗首相の台湾をめぐる『存立危機事態』の発言に怒り、米国のトランプ大統領が耳を傾けた」という中で、習氏は会談の半分を台湾に関する中国の歴史的権利と、戦後秩序の守護者としての米中両国の責任に費やした、となる。 
日米電話会談では、「トランプ氏が高市氏に台湾の主権に関して北京を挑発しないように助言した」と同紙は報じた。
朝日新聞は11月28日、「日中対立 日米間の火種に」 「答弁米側の支持得られず」の見出しで、「習氏の訴えを聞いたトランプ氏が首相にクギを刺した構図」と報じた。 
だが、木原稔官房長官は27日、WSJの報じた発言は事実ではないと申し入れたと説明した。
複数の政府高官への取材で得た情報も全く異なる。 
それによると、会談では高市氏がトランプ氏に存立危機事態の要点を説明し、「高市政権の考えは安倍晋三首相と同じだ」と語ると、トランプ氏は納得した。
日米連携で日中関係を維持することを大前提に会話は進み、挑発を牽制する発言はなかったという。 
WSJ、朝日の報道は中国政府の情報を反映しているのではないか。
日米を分断し、日本の孤立化をはかるのは年来の中国の戦略である。
日米による台湾有事での協力を示唆した高市高言を潰し去ることを中国は望んでいる。 
中国の政治体制を一人独裁に変えた習氏が重視するのは国家の安全である。
一人独裁、つまり習氏の神格化が進む中で台湾併合は氏の権力基盤を支える重要要素だ。
だからこそ、台湾に関わる不安要素は全力で除去する。
日本の水産物輸入の禁止、さらなる日本人拘束やレアアースの禁輸も考えられる。
力に任せて不条理を実行する異形の国が中国だ。
わが国は官民共に隣国への認識を根本的に変える時なのである。 
習氏が意を決してトランプ氏に架電したのは、台湾併合を米国と日本が妨げることがあってはならず、そのことを示唆した高市発言は許さないとの決意の表れであろう。
だからこそ、高市発言を歪曲し、恰(あたか)も日本が台湾で武力行動に踏み切る構えであるかのように、世界に流布するのだ。 
中国の情報戦に対して、本来わが国は外務省、在外公館が一丸となって多言語で正しい情報発信をしなければならない。
これからも続く習氏の対日圧力に、わが国は情報発信で大いに劣後しているのではないか。

日本政府中枢の人物が中国の習近平国家主席の狙いを分析した。  
「習氏は今回、台湾問題への強いこだわりをトランプ米大統領に知らしめた。彼らは来年4月のトランプ氏訪中、北京での数日を勝負の時と考えているだろう。最高のもてなしと、米国の要望を満たし、『G2』としての米中が世界の形を決めるとトランプ氏に納得させる。米国の台湾政策を転換させる。従来の曖昧戦略を捨てさせ、台湾は中国の一部だと認めさせ、台湾独立に明確に反対させる。それが真の狙いだ」 
歴史捏造(ねつぞう)に向けた中国の情報戦は矛盾だらけだ。
大東亜戦争の結果、台湾は中国の領土の一部とされたと中国は主張する。
それを守り実現することが戦後秩序を守ることだという。 
しかし、いかなる国際法も台湾が中国に帰属するとは定めていない。
米困も日本も、認めたことはない。
わが国は両岸の2つの当事者が平和裏に交渉することが大前提だとしてきた。
それを破っているのが習氏だ。 
戦後国際秩序を守るのが米中両大国の責任だと中国は米国に訴える。
だが戦後の国際秩序を書当換えようとしてきたのが中国だ。
ロシアのプーチン大統領のウクライナ侵略戦争を支え、中印国境を侵し、南シナ海を奪い、尖閣諸島(沖縄県石垣市)と沖縄を狙い、台湾は中国領だと主張すること自体が戦後の国際秩序の蹂躙(じゅうりん)である。 
東の風は西の風を圧倒する、時間は中国に有利だとして、地球社会を中国共産党の価値観で包摂しようともくろむのが習氏だ。
台湾が中国に組み込まれれば、地球規模の力のバランスに取り返しのつかない変化を引き起こす。
それは自由主義陣営VS.権威主義陣営の戦いで、米国が敗れ、中国が席巻する時代に突入することを意味する。 
そんな大悲劇を阻止する先頭にわが国は立たなければならない。
高市早苗首相の戦略が問われている。
まず、習氏の中国の異形振りをいかにして日米欧をはじめとする世界の共通認識とするか、であろう。 
他国と異なり、2千年間も中国とつき合って来たわが国の歴史を語り、習氏の言動一つ一つをトランプ氏にじっくり語りかけることが重要だ。
欧州も豪州もインドも、アジア諸国も中国の異形振りには気づいている。
そうした国々との情報の共有をこれまで以上に強めることが欠かせない。 
高市氏の国力強化策のほとんどに私は共感する。
しかし今必要なのは個々の政策、つまり戦術を束ねる、より大きな戦略であろう。
歴史を歪曲(わいきょく)し、国際法を無視する国の隣国であるわが国は、従来以上に備えなければならないのだ。
従来以上に戦略を練らなければならないのである。 
国際社会と協調する一万でわが国の脆弱(ぜいじやく)性を着実に潰していくことも欠かせない。
官民が危機意識を共有して、中国ビジネスは最小限に、中国に派遣される企業の社員は家族の帯同を控え、危険にさらされる日本国民の数を減らすことも大事だ。
技術移転を強いられる企業や中国資本に絡めとられそうな日本企業を政府があらゆる方法で守る。
隣国が異形の大国であることの認識を対中外交の基盤とすることだ。

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