青木さんの労作、最終章。
金融庁長官にも ヤメ検が天下り
不動産売買や遺言などに関する公正証書を作成したり、会社の定款に公的認証を与える権限などを持つ公証人は、法務局や地方法務局に所属し、全国に置かれた約300の公証役場に500人余りがいる。原則として30年以上の法実務経験を持つ者から法相が任命する公務員とされ、裁判官OBらもさることながら、検察OBにとって最大の、“再就職口”となっている。
ただし、検事長以上の役職を務めた大物ヤメ検は公証人にならないのが法務・検察内の“慣例”だ。つまり、検事長になれず60歳前後で退職した多数のヤメ検を、法務省が公証人に割り振っていることになる。
前出の検察OBの話。
「弁護士より安定的な収入が約束されるし、何より仕事が圧倒的にラク。一度就けば最低でも5年から10年は身分保障されるから、希望者も多い。退職の時期が近づくと、どこの公証人に空きが出そうか一生懸命に調べ、“内部資料づり”にいそしむ検事もいるし、公証人になりたいから自ら希望して検事正どまりで退職してしまったOBもいるほどだ(笑い)」
だが、法務・検察組織の、“権益”は、企業役員や公証人程度にとどまらない。ヤメ検は近年、数々の公的な機関や団体なども幅広く牛耳るようになっていた。
金融監督庁長官、金融庁長官、証券取引等監視委員会委員長、公正取引委員会委員長、預金保険機構理事長、整理回収機構社長、社会保険庁の最高顧問……いずれもヤメ検がこれまでに務めた、あるいは現在も務めている役職の一部である。
このほか、法務省が所管する「矯正協会」といったお決まりの天下りポストも存在する。同協会は現在会長を務める但木敬丁・元検事総長に至るまで4代続けて検事総長経験者が会長に就き、最低週I回の非常勤で年間約600万円もの報酬を受け取っている。
また、政府の審査会や役所、企業で不祥事が発生した際に設置される第三者委員会などに、多数のヤメ検がずらりと名を連ねるのも、お馴染みの光景だ。
最近では、法務省の中央更生保護審査会や、内閣府の情報公開・個人情報保護審査会などで複数のヤメ検が委員となっているし、07年6月に発足した総務省の年金記録問題検証委員会の座長には松尾邦弘・元検事総長が就いた。
同年1月に発覚した関西テレビの情報番組「発掘!あるある大事典II」のデータ艶造問題をめぐる同社調査委員会では、委員長を熊崎勝彦・元東京地検特捜部長が務めている。
同じ07年にプロ野球の西武ライオンズで発覚したアマチュア選手への金銭供与問題や、旧社会保険庁で08年に浮上した労働組合の「ヤミ専従」問題をめぐる調査委員会では、いずれも東京地検特捜部OBが委員となっている。
直近では、大相撲の賭博問題をめぐる特別調査委員会のメンバーに、村山弘義・元東京高検検事長が就いたのが記憶に新しい。村山氏は結局、同委員会の推薦で相撲協会の副理事長職に収まった。
これらはごく一例に過ぎず、大物ヤメ検が調査委員会などのメンバーとなった場合、息のかかった“子飼いのヤメ検”を引き連れていくケースが多いから、「ヤメ検軍団」が享受する恩恵はさらに裾野が広がる。
在職中は他省庁より抜きんでた待遇が約束され、退職後は各種の公的機関や企業、メディア、スポーツ界に至るまで、まるで日本を支配するかのような勢いで増殖し、幅を利かせるヤメ検―。これほど法務・検察出身者が引っ張りダコとなっているのはなぜか。
「近年の『コンプライアンス(法令順守)』の大合唱で特に、企業や公的組織は極めて神経質となっている。その点、検察OBは刑事事件に精通した法律家であり、何よりも『正義』『公正』のイメージが強いから引っ張りダコになるのです。対外的に一種の権威付けにもなっている面もあるでしょう」(別の検察OB)
しかし、大阪地検特捜部を舞台に発覚した今回の改京事件で、検察が「正義」 「公正」を顕現しているなどという神話の化けの皮は、完全に剥がれた。
元大阪高検公安部長の三井環氏は、こう言う。
「特捜検察が摘発してきた事件は、常に企業や公的組織が捜査対象です。特に最近は、バブル崩壊後に破綻した金融機関やライブドア事件などの捜査を次々手がけ、証券監視委や公取委にも検察の影響力が極めて強まっている。企業や公的組織にとって、法務・検察は怖い存在でしょう。でも、大物ヤメ検を抱き込んでおけば、検察に睨みが利くし、恩を売ることもできるから、さまざまなところで重宝される。いわば“用心棒”みたいなものです」
だとすれば、「正義」「公正」の仮面を被って歪みきった捜査に突き進み、その強面ぶりで急速に権益を拡大させてきた法務・検察出身者の跳梁蹊眉をどう評すればいいだろうか。
権カゴローそんな呼称こそ、ヤメ検と称される一群には相応しいように思えて仕方ないのだ。