今朝の「天声人語」から。
芥川は、くりきんとんのTさんに、ソクラテスの妻、クサンチッペのことを、何度か話したのですが…。
100年前のきょうトルストイが没したのは、家出をした旅先の片田舎だった。世界の尊敬を集めたロシアの大文豪が82歳にして家出をし、いわば野垂れ死にした「事件」は様々に取りざたされた▼中心は妻ソフィアだった。日本でも戦前、作家の正宗白鳥が「山の神を恐れ……おどおどと家を抜け出て」と恐妻ゆえの家出を論じた。これに批評家の小林秀雄が「果して山の神なんかを怖れたか。僕は信じない」とかみついた。文豪の思想と実生活をめぐる名高い論争である▼真相はともあれ、家出事件で文豪の妻は世界的に悪妻のレッテルを張られる。ソクラテスの妻とともに「三大悪妻」の動かぬ地位を占めてきた。もう一人にはモーツァルトやナポレオンの妻たちの名があがる。「うちの山の神!」と仰せの方も、まあ、おられようか…以下略。