技術流失について…14日の日経新聞から。
続いて、日経新聞から。
日本経済新聞2010年12月14日(火) 12面
エコカー電池 韓国と競う
材料の「裾野」、日本に強み
電気自動車やハイブリッド車に搭載するエコカー電池で、日韓の企業が激しく競う。材料技術でリードする日本勢を徹底したコスト削減で追う韓国勢。日本は半導体や液晶テレビで先行優位を生かせなかった轍(てつ)を踏むわけにはいかない。自動車、電機、化学。国の産業競争力をかけた総力戦が始まった。
「田中さん、こっちに来ませんか」。リチウムイオン電池の材料を手掛ける田中化
学研究所。希少金属の使用量が少なく、低コストで高性能の正極材は世界シェア15%を握る。1年以上前、田中保社長は韓国の大手電池メーカーから工場進出を持ちかけられた。
熱心な工場誘致
この韓国企業は「工場用地は準備する」「税制優遇を受けられ、電力料金も安い」と熱心に誘った。だが田中社長が選んだのは本社のある福井市での新工場建設。国内の集中生産で効率を高めれば競争力を十分に維持できると判断した。
リチウムイオン電池の基幹材料は電極の「正極材」「負極材」と両極を絶縁する「セパレーター」、イオンが行き来する「電解液」の4種類。いずれも日本企業の独壇場だ。負極材は日立化成工業が40%、セパレーターでは旭化成が45%のシェアを握る。2位以下も日本勢がずらりと並ぶ。
エコカー電池で追い上げる韓国企業は日本の材料技術がのどから手が出るほど欲しい。強さの源泉はどこにあるのか。
リチウムイオン電池は1991年、ソ二―が世界に先駆けて実用化した。材料の微妙な違いや組み合わせで性能ががらりと変わる典型的な「擦り合わせ型」の製品だ。
産業としてものになるか分からない段階から、材料メーカーと電池メーカーの二人三脚で最適な材料を追い求めてきた。電池メーカーの厳しい要求に応えて試行錯誤を繰り返し、材料メーカー同士がしのぎを削りながら門外不出のノウハウを積み重ねた。中堅・中小を含む裾野の広がりは韓国にまねできない。
そこで韓国は違う道を行く。電池大手のLG化学は化学メーカーとしての蓄積を生かし正極材とセパレーターを内製化。負極材と電解液の生産も検討する。産業集積を生かした「水平分業」の日本に対し「垂直統合」でコストを減らす。
LG化学はかつて日本のエコカー電池を「10年は先を行っている」と分析した。そのLG化学が欧米の自動車大手から大型受注を重ねる。縮まる日韓の差。今後の競争力を決めるのは、世界最大の自動車市場に育った中国への対応だ。
覚悟の中国生産
「技術を盗まれたらどうするんだ」。2004年に中国進出した森田化学工業(大阪市)。電解液の原料となる電解質の現地生産に同業他社の幹部は懸念の声を上げた。リチウムイオン電池向けの電解質は取り扱いが難しく、同社を含む日本の3社で長らく世界市場をほぼ独占してきた。だが韓国や中国では現地企業が次々と台頭する。
どう対抗するか。森田化学の答えは「覚悟を決めて出る」(堀尾博英取締役)ことだった。中国工場の管理職約20人のうち日本人は堀尾氏だけ。ノウハウの固まりである製造装置はすべて中国製だ。日本発の高品質と現地化による低コストを組み合わせ、中国で6~7割のシェアを握る。電気自動車時代の到来を見据え、13年をめどに大幅増産に乗り出す。
LG化学は中国の自動車大手、長安汽車集団とリチウムイオン電池の納入契約を結んだ。材料を含め電池のコスト低減を一段と加速する。野村証券金融経済研究所の御子柴史郎シニアアナリストは「日本勢も材料の現地生産の流れは止められない」と指摘する。
エコカー電池市場を狙い電解液に新規参入するセントラル硝子。中国企業と合弁会社を設立し、12年6月をめどに生産を始める。ただ現地生産は電解質が主体。微妙なノウハウが求められる電解液の調合は原則として日本で実施する。
韓国勢の追い上げをかわすには、世界に目を向け規模を求める必要がある。技術流出のリスクに向き合い、どこまで現地生産し、何を日本に残すのか。ひたすら技術を磨き上げてきた日本の材料メーカーはグローバル成長へ新たな岐路に立つ。