更に…。

「現場主義」の落とし穴

 思考停止の理由の1つは、日本の記者が掲げる「現場至上主義」にあるかもしれない。日本人記者は→現場」という言葉を愛してやまない。「休みも惜しまず、真実を追い求め日夜現場を走り回っている記者たち」というイメージは心に響く。現場主義を徹底することは一見、ジャーナリズムの基本中の基本であるようにも思える。

 実際、日本の新聞社やテレビ局は世界でもトップクラスの取材力と組織力を誇っている。ニュースの重要人物と判断すれば、取材対象を地の果てまで追い掛けるその機動力と人海戦術に驚愕する欧米メディアの記者は多い。「世界のどこに行っても、日本人記者だけは必ずいる」とアメリカの外交官も舌を巻くほどだ。
 

CNN北京支局のスティーブンーチアン記者は、数年前の6カ国協議の取材での光景が忘れられない。会場だった北京巾中心部の釣魚台迎賓館には各国のメディアが集まったが、なかでも圧倒的な数の記者やスタッフを擁していたのがNHKや日本の新聞だった。

…中略


問題は、そこで思考が止まっていることにある。行き過ぎた現場至上王義で「現場に行って取材すればそれで終わり」と満足し、記者はニュースについて深く考える機会を自ら放棄している。


…中略


現に優秀な警察記者が本社の花形部署に優先的に異動するという人事システムは基本的に変わっていない。 取材での忍耐力は身に付くものの、サツ回り経験は記者から健全な批判精神を奪いかねない。「夜討ち朝駆けでは権力との一体化が奨励される。批判的精神など役に立たない」と、毎日新聞の花岡洋二エルサレム支局長は言う。


…中略


「多くの日本の記者たちは夜討ち朝駆けの繰り返しで本を読む暇も、物事を考える時間もない」と、花岡は言う。「取材相手と渡り合うための知見などない」
 

その姿はまるで、軍隊で何も考えずにひたすら上官の命令に従うようにたたき込まれる新兵だ。新聞社で記者が今も「兵隊」と呼ばれるのは偶然ではない。そして、思考停止した記者の多くが権力との一体化という罠に陥る。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください