苦楽抱え温泉でほっと…今朝の朝日新聞29面から。
原発事故で避難している住民を支援しようと、福島県が県内の宿泊施設を活用した生活支援を始めた。
避難所から温泉街の旅館・ホテルに移り、求職活動などの拠点にしてもらうねらいだが、複雑な思いを抱く人もいる。
日本百名山のひとつ安達太良山ふもとにある二本松市の岳温泉。5日、原発事故で避難や屋内退避の指示が出ている浪江町の児童・生徒がランドセルや学生服を抱えて旅館に入った。
「避難所ではあまりお風呂に入れなかった。広いお風呂で温まり気持ちよかっだ」。浪江町の小6、原中美穂さん(11)はそう言い、3週間になる避難所生活の疲れを癒やした。
町の子どもやその親は各地で避難生活を送っていたが、この日だけで約890人が二本松市や福島市の宿泊施設に移った。
町は児童・生徒のいる家族を優先させた。6日に行われる始業式に間に合わせるためだ。学校へはバスで送迎する。
磐梯熱海温泉など郡山市の宿泊施設にも、富岡町や川内村などの約500人が移った。
富岡町の木谷畑一正さん(44)は温泉で一息ついたが、気持ちは晴れない。「お風呂は広いし、きれい。だが好きで来たわけではない。ただ、普通の暮らしがしたい」。
高台の自宅は家財の一部が壊れた程度。隣村に一時避難した3月12日夜、テレビで原発事故を知った。
2~3日で帰れると思っていたが、状況は日に日に悪化。「もう戻れないのではないか」と不安が心をよぎる。
消防団員として、震災後も富岡町民がいる避難所で周辺の夜警をしている。20日ほど前、勤務先から解雇を告げられた。
「今は消防団が唯一の生きがい」と、見回りのため旅館から避難所に通う。
(石松恒)