しまむらとヤオコー 小川孔輔著…日本経済新聞3月27日読書欄から。
個人消費が盛り上がらない中で長年、着実に成長している2つの中堅流通企業の経営戦略をドキュメンタリータッチで描いている。マーケティング、経営学の分野で著名な学者である著者が実業の世界に足を運んで取材した。
衣料チェーンのしまむら、食品スーパーのヤオコーはともに埼玉県の小さな町で産声を上げた。東京や大阪のように肥沃な消費地と違い、厳しい事業環境に置かれながら独自のビジネスモデルを構築するまでの悪戦苦闘の物語だ。
地方発の小売業がなぜ強いのか。まずは女性の活用にある。無名な会社は採用にも苦労するが、両社が頼ったのが地元に住む主婦たち。パート採用すると即戦力になった。
運動会など地域の歳時に精通した彼女たちは試行錯誤を繰り返しながら地域密着型の品ぞろえ、売り場作りに挑戦する。大手流通業が実践する中央集権型の店舗運営と一線を画したことが奏功。事業基盤を作った。
この2社には中興の祖となる人物がいる。経営数値に明るいのは当然だが、働く女性に優しいユニークな人事制度の創設に注力する。女性のやる気を引き出し正社員への道を開き、優秀な女性が家庭の事情などで会社を辞めることがないようにした。経営資源の乏しい中堅企業が編み出した柔軟性のある組織がさらに活力を生む。小売りの基礎が学べる。(小学館・1400円)