知性派テキサス男トミー・リーの流儀…ニコール・ラポート ニューズ・ウィーク3月2日号から。
渋い役者の顔の裏に芸術家の魂を持つ俳優トミー・リー・ジョーンズが知的で壮大なテーマのテレビ映画を監督
トミー・リー・ジョーンズとカリフォルニア。何だか奇妙な組み合わせだ。カリフォルニアといえば、太陽がさんさんと輝き、人々はひたすら楽天的。
対する64歳のジョーンズは暗さと重々しさの塊だ。岩に彫り付けられたようないかめしい顔は表情を変えず、その深い瞳は憂いを帯びている。
緑あふれるロサンゼルス郊外にあるホテルのスイートルームで会ったジョーンズは、いかにも彼らしかった。部屋のブラインドは下ろされ、室内は薄暗い。革張りの椅子に姿勢を正して座るジョーンズは厳しい顔つきのまま、ほとんど瞬きもせず、世間話を飛ばして本題に入る。テキサス出身者らしくジーンズとコーデュロイの上着とブーツで身を固めた姿は、「孤高の一匹狼」の雰囲気を放っていた。
タフで武骨な西部の男は、俳優ジョーンズの定番の役だ。映画『逃亡者』のサミュエル・ジェラード捜査官、『ノーカントリー』のエドートム・ベル保安官……。映画を見た者が、そうした役柄と役者本人を同一視するのも無理はない。
だがそのイメージの裏には、別の顔がある。思索家にして壮大なアイデアを持つ男、ハーバード大学で学び(寮のルームメイトはあのアル・ゴアだった)、卒業論文のテーマ「フラナリー・オコナーの作品における『カトリック主義の力学』」について雄弁に語る男の顔だ。
ジョーンズは妥協を知らないアーティストでもある。自らの表現手段に深い信念を抱き、言葉の使用法と構造について学者のように献身的に思考する。
近年、ジョーンズは憧れの作家にして友人のコーマック・マッカーシーと共に、ある種の流行に火を付けている。
壮大かつ絶望的なテーマに米西部ならではの言葉を織り込むスタイル名付けて「テキサス流知的黙示録」の世界観だ。
マッカーシーの小説『血と暴力の国』を原作とする映画『ノーカントリー』は3年前にアカデミー賞作品賞などを受賞。
…中略。
2人が再び組んだのが、先日米ケーブル局HBOが放送したテレビ映画『ザ・サンセット・リミテッド』だ。マッカーシーが06年に発表した戯曲を基にジョーンズが監督したこの作品では、自殺しようとする大学教授(ジョーンズ)と、彼の命を救った敬虔な元犯罪者(サミュエル・L・ジャクソン)が神学的対話を繰り広げる。
「言葉」に情熱を燃やす
マッカーシー作品の中でも知名度が低い本作は、シカゴの劇団が初演。ニューヨークのオフーブロードウェイで上演されたこともある。
「かなり前に戯曲を読み、その後も何度か読み返した。素晴らしい映像作品になると思っていた」。ジョーンズは「話す」というより宣言する」という表現がふさわしい大声でそう語る。それからしばらく、言葉を探すように黙り込み、ようやく口を開く。「映像化する価値があった」。沈黙。「映画にぴったりだった」。さらに沈黙。「そうコーマックに話した」
おそらくジョーンズにとって最も魅力的だったのは、『サンセット』が言葉をめぐる作品だという点だろう。
言葉への情熱は「多くの本を読み、優れた学校で学んだこと」によって芽生えたと、ジョーンズは言う。
…中略。
93年の『逃亡者』でアカデミー賞助演男優賞も受賞した長いキャリアの持ち主だが、ハリウッドセレブの役には染まらない。SFアクション大作『メンーインーブラック』の出演者として記者会見に臨んだ際には、「エイリアンの存在を信じるか」と聞かれ、席を立ったこともある。インタビュー嫌いで、ばかげた質問には怒りを隠さない。
…後略。