先般の「骨太の方針」で投資審査については関係省庁の連携と執行体制の強化だけで、明らかに生ぬるい。外為法の制度強化を躊躇してはならない。

以下は、今日の産経新聞に、東芝・楽天問題にみる「平和ボケ」、と題して掲載された細川昌彦・明星大学教授の論文からである。
細川は真の日本のエリートの一人である。
東大法学部を卒業して国家の経営に携わる為に通産省に入省した。
彼は今、日本の為、世界の為に本物の論文を書いている。
見出し以外の文中強調は私。
東芝・楽天問題にみる「平和ボケ」
東芝問題で、物言う株主が選任した弁護士らによる調査報告で激震が走っている。
詳細な分析ではあるが、正義のヒーロー・物言う株主から見た「一方的な推論」による劇的ストーリーだ。
これを鵜呑みにした報道も目につく。 
例えば「東芝と経済産業省が一体となって株主提案権の行使を妨げた」と断じている。
しかし主語を正確に論じるべきだ。
東芝経営陣の一部の思惑は、あくまで企業統治の問題だ。
他方で経産省もそうした意図で安全保障行政を歪めたかの記述は一方的な推論だ。 
安全保障上の懸念がなければ、国は介入することはない。
あくまで東芝が有する重要産業の生産基盤の切り売りや技術流出がないよう守るのが目的だ。
東芝の経営体制を守るものではない。 
安全保障と企業統治の問題は峻別すべきだ。
また株主の権利が国家の安全保障より優先するかの如き論が横行している。
これは「平和ボケの甘さ」だろうか。 
安保に「説明責任」どこまで 
梶山弘志経産相は国の安全に重要な事業、技術を確保するために当然の対応として、それ以上の詳細には触れない。
これに対して「不透明な裁量行政だ」「説明責任を果たすべきだ」と批判する。
一見もっともらしい批判だが、問題は安全保障にどこまでの説明責任があるかだ。
安全保障上の案件を必要以上に説明しないのは国際的に常識だ。
国の諜報活動による情報もあり、安全保障の手の内を明かすことにもなる。 
例えば米国の対米外国投資委員会(CFIUS)は事後に投資を遖って無効にできる、強力な権限を有し、裁量は極めて広い。
かつて住宅関連メーカー大手のLIXILが子会社を中国企業に売却した案件も遡(さか)のぼって契約解除させられたが、理由は明らかにされていない。
「CFIUSとの間に信頼関係があるからだ」といった的外れの指摘は論外だが、投資者も事前にCFIUSと協議できる仕組みを活用して、不確実性をなくそうとしている。
決してCFIUSが公に説明しているわけではない。 
安保上の懸念は当然 
国による公の説明に限界があるのをいいことに、外為法上問題ないにもかかわらず、あえて外為法を持ち出して圧力をかけたかのような主張には唖然とする。
外部の私でも公開資料だけで安全保障上の懸念を指摘できる案件だ。 
例えばある「物言う株主」は、米国によって安全保障上の懸念から輸出禁止措置の対象になった中国の半導体最大手SMICの社外取締役を務めた人物を社外取締役に選任するよう株主提案している。
また報告書によると、別の「物言う株主」は経産省から出資の際の誓約書に違反する懸念を伝えられていた。 
こうした安保上の懸念は「物言う株主」ごとに異なるので、経産省の対応も当然それぞれ異なる。 
「安保より投資」が楽天問題へ 
また判で押したように繰り返されるのが、外為法の運用が不透明で海外からの投資マネーの流入に響くとの指摘だ。
もしもそうならば、日本よりも裁量が広く不透明なCFIUSの規制によって、米国への投資マネーの流入に支障となっているのだろうか。 
実はこうした「安保より投資」かの如き論調は1年半前にもあった。
当時改正外為法を過剰規制だとして、海外からの投資マネーの流入に支障となると、しきりに喧伝された。
こうした声に押されて、財務省は当初案から後退して、事前届け出の免除を広く認めてしまった。
テンセントによる楽天への出資について事前届け出が免除されたのもその結果だ。
それは4月6日付の本欄で指摘した。 
その後、「日本の規制は甘い」との米国からの批判を避けるために、政府は「事後でも継続的に監視する」としている。
しかしそれにも限界がある。
それで足りるならぱ、事前届け出制を導入した理由に窮してしまう。
やはり弥縫(びほう)策ではなく、第2、第3の楽天問題が生じないよう、早急に”抜け穴”をふさいで事前届け出を強化すべきだ。 
東芝の「物言う株主」が事前届け出をした際、経産省は誓約書を取っていたが、事前届け出を免れると、その機会さえもなくなる。 
例えば、軍民融合が進む中国との関係でも深刻な懸念がある。
事後的に外国出資者が国有企業となったり、買収した外国企業が軍民融合の懸念先から投資を受けたりした場合、それを阻止する手立てもない。
さらにもっと本質的な問題は、そもそも日本は他の先進国並みの諜報能力がないことだ。
米国のCFIUSは諜報情報を基に事後的に安保上の懸念を見つけた時に遡及して投資を無効にできる。
日本は事前届け出を通してしか情報収集ができない。
「事前届け出こそ命」なのだ。 
先般の「骨太の方針」で投資審査については関係省庁の連携と執行体制の強化だけで、明らかに生ぬるい。
外為法の制度強化を躊躇してはならない。
楽天、東芝問題が投げかけているのは、「平和ボケ」の論議に安全保障が左右される危険性だ。     
(ほそかわ まさひこ)

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