とくに日本への敵意や憎悪は政策形成層にも強い。その間違った世界観が中国政府に実際の戦略を大きく錯誤させる危険を日米同盟は認識すべきだ
以下は昨日の産経新聞に掲載された古森義久の定期連載コラム「あめりかノート」からである。
彼が数少ない本物のジャーナリストである事と最澄が定義した「国宝」である事を証明している論文である。
ここ数日、私は珍しく、NHKとテレビ東京の報道番組を観ていた。
この事について全く報道していない彼らには報道機関としての資格など全くないと言っても過言ではない。
中国の軍事研究集団が「日本が台湾有事に軍事介入すれば、中国はただちに核攻撃を日本に加えるべきだ」と新戦略を打ち出した。
中国政府の公式な言明ではないにせよ、米国側ではこれを機に中国への警戒を改めて強める反応も示された。
中国の民間の軍事研究チャンネル「六軍韜(とう)略」は7月11日、「核攻撃での日本平定」と題する動画を一般向けの広範なサイト「西瓜視頻」に載せた。
約6分のこの動画は日本の政府首脳や防衛省が日本の台湾有事への関与や参戦までを語るようになったとして、もし日本が台湾での有事に少しでも軍事介入すれば、「中国は必ずただちに日本に核攻撃をしかけ、日本が無条件降伏するまで核攻撃を続ける」という戦略を明示した。
同動画は女性の解説者の言葉でその背景として「日本では安倍晋三前首相が進め、菅義偉首相が続けた極右反中路線や新軍国主義が蔓延し、中国に戦争を寫言する掴民的な基礎を固めた」と述べ、核攻撃の際には尖閣や沖縄も奪回すると宣言していた。
動画は菅首相の大写しに始まり、麻生太郎副総理兼財務相ら日本政府の中枢人物、自衛隊の活動の光景から中国の核兵器爆発や核ミサイル発射、日本の原爆被害の跡までをみせていた。
だが中国政府は1964年に核兵器保持を宣言して以来、戰争でも最初に核兵器は使用しないという「先制不使用」の方針を表明してきた。
だから非核国への核攻撃もしないことになる。
この点、六軍韜略は日本が中国を2回も侵略し、なお攻撃を意図しているからとして「日本は例外だ」と言明していた。
この動画は2日間で約200万のアクセスを記録したという。
この日本核攻撃論は中国当局の方針ではないとしても、共産党独裁下ではたとえ民間とされる組織からでも一般への発信は当局が監視し、管理している。
政権が暗に認めた日本への核威嚇だともいえよう。
この動画の発表は多数の米国メディアでも詳しく報道された。
日本への核の威嚇や攻撃には同盟国の米国が拡大核抑止、つまり「核の傘」で抑止や報復をする態勢を誓約している。
だからこの動画は米国の中国研究者たちの注意を即刻、生むこととなった。
中国の対外戦略の専門家ロバート・サター氏は「中国の日本への核攻撃は米国との全面的な核戦争をも意味するから、この動画のように簡単に動けるはずはないが、日本としては中国のこうした傾向は十二分に懸念すべきだ」と述べた。
中国の軍事動向に詳しい卜し・ヨシハラ氏は「中国政府は明らかにこの種の対外憎悪の民族感情をあおっている。とくに日本への敵意や憎悪は政策形成層にも強い。その間違った世界観が中国政府に実際の戦略を大きく錯誤させる危険を日米同盟は認識すべきだ」と警告した。
バイデン政権でもつい最近、国務省報道官が中国の核戦力の増強や核戦略の変化への懸念を述べたばかりだったから、この動画は米中関係の新たな暗雲ともいえそうだ。
もっとも筆頭の当事国はわが日本であることは自明である。