1月26日、実物投資につなげるにはと題した論文は、見事に正鵠を射たものである
日経新聞の経済コラム「大磯小磯」に掲載された「実物投資につなげるには」は、トランプ大統領の企業への直接的圧力が米国内の設備投資・研究開発投資を促す可能性を示しつつ、日本における海外資金流入が実物投資に結び付いていない現状を鋭く指摘している。日本では国債購入や株式売買に資金が偏り、企業の実物投資や雇用創出には十分につながっていない。さらに株主の影響力増大によって増配や自社株買い圧力が強まり、資金が流出する懸念も示される。株式投資が実物投資に結び付く数少ない経路として、機関投資家と企業の建設的対話の重要性と、長期保有と深い企業理解の必要性が説かれている。
1月26日、実物投資につなげるにはと題した論文は、見事に正鵠を射たものである。
2017-01-29。
日経新聞の経済コラムである大磯小磯は時々、最高の論文を掲載する。
1月26日、実物投資につなげるにはと題した論文は、見事に正鵠を射たものである。
トランプ米大統領による個別企業を狙ったツイッター攻撃は、自動車メーカーによる米国内への設備投資や研究開発投資を増やすという直接的効果をもたらしそうである。
フォード・モーターをはじめとする米自動車メーカーは、その代償としてメキシコへの投資を減らすというゼロサム的な動きをとっているが、日系メーカーは両国での投資をともに拡大しようとしている。
設備投資や研究開発投資という実物資産への投資は、直接に需要を生み出すという経済効果だけでなく、中期的に雇用を増やすという波及効果もある。
日本ではアベノミクスの効果で海外からの資金流入が増えている。
だが、企業の実物投資に資金が向かっているのだろうか。
国債の購入に偏重しているという見方もある。
それだけではなく、外国人投資家による日本株の買いという形での海外からの資金流入は、企業における実物投資にはつながってはいないように見える。
それどころか、企業のガバナンス改革によって株主の影響力が強まったため、増配や自社株買いへの圧力が高まり、投資先企業からの資金流出が増えてはいまいかという危惧もある。
株式投資が実物投資を増やす経路はいくつかある。
企業の株式発行による資金調達に応えることは、実物資産への投資につなげる最も明らかな経路である。
それ以外の経路はあまり明白ではない。
株を売却した側が、その資金を実物投資に振り向けるという経路もあるが、それは株の買い手側の行動ではなく、売り手側の行動である。
株を買うことが実物投資を促すという経路は自明ではない。
スチュワードシップ・コード(機関投資家向け行動原則)にあるような、投資家と企業との建設的な対話による設備投資などの促進は、投資家の株式購入が成長に向けた実物投資を企業に促す数少ない経路の一つである。
この経路を太くするような投資家の自覚が求められるが、投資先の経営状況についての知識を持ち、事業とその業界についての鋭い洞察がなければ、対話は価値を生まない。
このような知識を深めるためにも、ポートフォリオを限定するとともに、長期にわたる株式保有へのコミットメントが不可欠である。
(猪突)。