捏造サンゴ事件の真相 ― 朝日新聞が自ら検証しなかった決定的事実
サンゴ事件が捏造であったことを朝日新聞が最終的に認めた経緯と、その実態解明が外部圧力によって行われた事実を検証する。沖縄ダイバー組合の報告、関係者処分の全容、社長辞任、組織改革の実態、そして今日に至るまで朝日がこの事件を本格的に総括していない構造的問題を明らかにする。
実態の究明は朝日新聞自身が積極的に行ったものではなかったのである。
2016-01-18
世界的にも大きな変化があった年であるが、日本の報道史上でも、極めて重要な事件が起こった年であった、の続きである。
それが「ねつ造だったサンゴ取材 弁明の余地ない行為」という見出しの記事である。
ここに至って、最初からカメラマンによるサンゴ損傷であり、写真そのものが意図的な捏造であったことを、やっと告白したのである。
朝日がそこまで追い込まれた背景には、沖縄のダイバー組合が、この事件に関する詳細な報告書を作成していて、それが公表されるという事実があったからであり、実態の究明は朝日新聞自身が積極的に行ったものではなかったのである。
この事件の重大性に鑑みて、関係者の処分が5月20日に発表された。
捏造の張本人である本田嘉郎・写真部員は退社処分(懲戒解雇相当)となった。
本田カメラマンと行動を共にしていた、上野昇・西部本社写真部員は停職三ヵ月に処された。
上部の人間は監督責任を問われて、中江利忠・専務取締役編集担当など四人が減給処分を受け、西部本社編集局次長が譴責処分となった。
そして最高責任者である一柳東一郎社長は、この事件によって辞任することとなったのである。
この事件の衝撃は、朝日新聞の組織・機構の改革をもたらした。
9月20日の社告によって発表されたのは、紙面審議会と読者広報室という二つの組織を新設することであった。
その後、10月9日になって、「サンゴ損傷事件の調査報告」と題する、長文の総合的な報告が掲載された。
これだけ重大な事件であったのに、サンゴ事件は現在はほとんど忘れ去られている。
それはなぜか。
それは朝日新聞そのものが、この事件を少しも真面目に回顧しないからである。
第1章で述べたように、自分が被害者であった、二年前に起きた阪神支局襲撃事件は、犯人が不明のままであることが関係しているにせよ、朝日新聞は毎年毎年しつこいように、キチンキチンと回顧する。
しかし、朝日新聞が明確な加害者であるサンゴ事件について、その回顧記事を目にしたことは、まったくと言って良いほどない。
この稿続く。