『富国と強兵』が示す地政経済学の核心——グローバリズムの崩壊と国家の復権

産経新聞の書評欄で紹介された中野剛志『富国と強兵』は、主流派経済学を超えて地政学と経済学を融合する大作である。戦争が経済体制や制度を刷新してきた歴史的動因を明らかにし、行き詰まったグローバリズムから国家の役割を再評価する時代の到来を示す必読の書である。

こうした全体的な歴史の流れを時代の中で読み取っていたすぐれた人も少数ながらいた。
2017-02-21
以下は日曜日の産経新聞読書欄からである。
この本の著者である中野剛志は日本の最優秀選手の一人である。
朝日新聞などの御用学者や、日本に対する損害の数々を作り出してきた、或いはそのような人材を育てて来たような学者たちとは気骨も発想も違う人物である。
題字以外の文中強調は私。
富国と強兵 地政経済学序説
中野剛志著(東洋経済新報社3600円十税)
主流派経済学を超える試み
評・小浜逸郎(評論家)
古い経済学を捨てて地政学と経済学との融合を目指す600頁超の野心的な大作。
利益を目指して合理的に行動する経済人という主流派経済学の人間規定は根本から問い直されるべきだ。
それは動態としての人間をとらえず、未来への行動に付きまとう不確実性や、制度を通して動く集団としての人間を視野から外してしまう。
政治と経済とは密接・複雑に関係しているのに、主流派経済学は自律的な科学のように君臨してきた。
しかしこの経済学の基礎にあるのは新自由主義というイデオロギーである。
これが生み出したグローバリズムは、国家が経済活動に対して持つ欠くべからざる意義を無視し、格差の拡大、成長の行き詰まり、金融危機、世界不況、技術開発の鈍麻、政治的秩序の混乱など、経済自由主義が潜在的にもつ危機的な側面を露呈させただけだった。
著者は西欧近代の黎明期から現在の国際社会に至るまで、人間の政治経済活動を大きく動かしてきた動因と原理に詳細な視線を巡らす。
特に著者が強調するのは、時代や国に応じて戦争が古い経済体制を塗り替え、行き詰まっていた体制に息を吹き返させてきた経緯である。
それは経済のみならず、技術、組織形態、国民的意識や政治制度をも刷新する。
そして重要なのは、それらが戦後終息してしまうのではなく、そのまま残り続けるという事実である。
こうした全体的な歴史の流れを時代の中で読み取っていたすぐれた人も少数ながらいた。
著者はマッキンダー、アシュリー、コモンズ、ケインズらを挙げる。
彼らの経済思想はみな、状況に応じて経済への国家の関与を積極的に認めるものだった。
健全な保護主義というべきか。
彼らは直観的に地政学と経済学とを融合させていたといえる。
ブレグジットやトランプ大統領の登場をやみくもに世界の危機と騒ぎ立てる人は多い。
しかしグローバリズムの危機ならもうとっくに来ているのである。
あらゆる領域にわたってナショナルなものの価値を見直すべき時だ。
本書は現実的知性にそのためのヒントを大いに与えてくれる。

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