BNCTが拓いた癌治療の最前線――規制が止める人類の希望
BNCTは中性子とホウ素を用いる革新的ながん治療であり、脳腫瘍から肺癌・肝癌まで適用範囲を広げてきた。
世界で唯一、原子力工学・薬学・医学の三位一体が揃う京大原子炉実験所で、その進化は止められている。
過剰な規制が、癌克服への道を遮断している現実がある。
以下は前章の続きである。
2016-01-04
黒字強調は私。
BNCTの治療では、特殊なホウ素を含んだ薬剤を投与し、癌細胞がその薬剤を取り込んだタイミングで中性子を当てる。
するとホウ素が中性子を吸収して二つにパンと割れ、その際に放出される放射線で癌細胞が死滅する。
小さな爆竹を癌細胞の中に送り込むようなイメージである。
BNCTは、癌の患部と正常組織が混じり合う悪性度の高い癌にも有効で、従来は困難だった治療を可能にした。
進化を遂げたBNCTの適用範囲は、当初の脳腫瘍と皮膚癌の黒色肉腫から、舌癌、口腔癌、耳下腺癌、肺癌、肝癌へと広がった。
いまやBNCTは、癌克服の決め手として期待されている。
治療の成功には、原子炉を運転して中性子を作る原子力工学、ホウ素を含む薬剤を開発する薬学、放射線治療を担う医学の三分野による高度な連携が不可欠である。
それがすべて揃っているのは、世界でも京都大学原子炉実験所だけである。
ところが、このBNCT治療は、中性子を用いた基礎研究とともに、規制委によって止められている。
規制委が二〇一三年に商業用原発向けに強化した厳しい新基準を、実験・研究用原子炉にも適用したからである。
京都大学の原子炉は出力五千キロワットと百ワット、近畿大学の原子炉はわずか一ワットである。
これは関西電力大飯原発一基の約三十億分の一、いわば豆電球にすぎない。
しかも空気だけで十分に冷却される。
この稿続く。