市場神話を否定するラディカルな格差是正論
アンソニー・B・アトキンソン『21世紀の不平等』は教科書的な市場の存在を否定し政府の積極介入を主張する。
効率性と公平性は両立し得るとし最低賃金や資本給付など15の大胆な政策提言を示す一方日本への適用には慎重な検討が必要だと論じる。
2016-02-03
以下は日曜日の読書欄からである。
アンソニー・B・アトキンソン著『21世紀の不平等』はトマ・ピケティ『21世紀の資本』やアンガス・ディートン『大脱出』に続く格差と貧困を扱う大著である。
著者はディートンと並び格差と貧困を理論的かつ実証的に研究してきた世界的権威である。
昨年のノーベル経済学賞でも同時受賞を予想する声が多かった。
ピケティも大きな影響を受けた研究者の一人である。
本書は格差是正のための政策提言を展開する行動計画に完全に専念した本である。
教科書に描かれるような市場はそもそも存在せず政府は分配を意識して市場に積極介入すべきだと主張する。
技術革新が格差を拡大させるなら政府が是正する方向へ誘導すべきだとまで述べる。
効率性と公平性は常に二律背反ではなく公平性の追求が効率性を高める可能性もあるとする。
所得税の累進性強化や児童手当の拡充に加え最低賃金による公的雇用保証や成人時の資本給付など十五の具体策が示される。
一方で一九六〇年代や七〇年代への逆戻りだとの批判も予想され本書第三部はその反論に充てられている。
内容は英国の政策史に依存する部分があり日本にそのまま当てはまるとは限らない。
それでも本書の迫力には多くの読者が触れるべきである。