〈生まれつき政治家〉という虚構を笑い飛ばす加地伸行の痛快な論考:〈トランプ怖ろし〉に怯えるメディアの自己矛盾と傲慢

月刊誌『WiLL』巻頭コラムを執筆する加地伸行氏の最新論文を手がかりに、トランプ大統領誕生を前に右往左往するメディアの浅薄さを鋭く批判する。
「政治は専門職」という思い込みを笑い飛ばし、〈生まれつき政治家〉という虚構の不在を明快に示す。
トランプ政権誕生を前に、恐怖と混乱に陥る日本メディアの姿勢を分析する。
反米を唱えながら同時に米国依存を求める左派的言論の矛盾と、その根底にある無思想的御都合主義を鋭く批判する。

2017-03-07
月刊誌WiLLを購読している方はよくご存知だと思うが、巻頭の連載コラムは大阪大学名誉教授の加地伸行氏が執筆している。
最新号の彼の論文は実に見事なもので、私は呵々大笑した。
加地氏も、時には私の論説を読んで呵々大笑しているかもしれない。
文中強調は私である。
トランプ大統領着任という意外な展開となった今、メディアは右往左往している。
有り体に言えば、二種類である。
一つは馬鹿にしている。
もう一つは怖がっている。
前者の一例を挙げると、トランプはビジネスマン生活を送ってきた人間であり、政治について何も分かっていない、との断罪である。
これを本気で言っているのか。
もしこの発言が妥当であるならば、〈生まれつき政治家〉以外は政治家になれないということになる。
この調子で言えば、彼は研究生活を送ってきた人間だから政治は無能、彼女は主婦だったから政治音痴、あの人は医者だったから政治は無知、という話になる。
すなわち、〈生まれつき政治家〉以外は駄目だという結論になる。
しかし、〈生まれつき政治家〉などという人種が、この世に存在するのだろうか。
そんなものは存在しない。
どの人間も生きていくために、まずは社会で働く。
そのうちに、何らかの事情や本人の意思によって政治家になるのがほとんどである。
仮に十代で政治家志望を抱いたとしても、選挙という壁があり、そう簡単に政治家になれるわけではない。
まずは政治家秘書あたりからのスタートになるだろう。
しかし、政治家秘書は政治家ではない。
一つの職業にすぎず、そこから出発すれば必ず政治家になれるわけでもないのである。

次に、第二型である。
すなわち、メディアが〈トランプ怖ろし〉の気分にあるということだ。
メディアは政治批判を看板にしていながら、政治の現況の変化を恐れている。
その恐怖感の極致が、まずは戦争の恐怖である。
ただし、中近東の騒ぎなどどこ吹く風で、関心はひたすら東北アジアに向けられている。
具体的には、中国との軍事的緊張である。
もちろん、北朝鮮の核ミサイルも恐怖の一つではあるが、それは抑えられるという〈希望的期待〉で話をごまかしている。
韓国は日本に攻め込んでこないと、勝手に決め込んでいる。
結局、中国との軍事的紛争という恐怖があるのだ。
その恐怖が現実化したとき、トランプが日本側につくのかどうか分からないという〈トランプ怖ろし〉の気分が、メディアを支配している。
情けない話である。
自国は自国が守るという国家の基本を心得ているメディアは少ない。
我が国への中国の侵略が発生したとき、大半のメディアは日本の反撃など語らず、ひたすら日米安保条約の適用、すなわちトランプ大統領への哀訴を書き連ねることだろう。
老生は、この一か月のメディアの発言から、以上のように受け止めている。
これを整理して言えば、メディアは自分たちは高級な知的集団で偉い存在であり、トランプは無教養な愚者だと断ずる、独りよがりの世界から発言しているということである。
その傲慢さゆえだろうか、自分たちの意見の矛盾に気づいていない。
その矛盾は、日本の左筋の発言と見事に重なっている。
例えばこうである。
メディアの大半は基本的に反米である。
それはナショナリズムからくる反米ではない。
すでに崩壊した彼らの祖国、すなわち旧ソ連などが屁理屈を付けて唱えていた、アメリカ帝国主義反対の流れである。
つまり、アメリカは帰れ、という話である。
ところが、トランプ政策が、アメリカは世界の警察をやめ、アメリカ本土の繁栄に戻るという姿勢を打ち出した途端、なんとアメリカの内向きは許されない、もっと国際的になれと言い出す。
これは、アメリカ、居て頂戴、という話である。
時にはアメリカ帰れと言い、時にはアメリカ居てよと言い、自分の事情でくるくる立場を変え、それを矛盾とも思わない。
これが左筋の弁証法的態度である。
そこにあるのは、無限の御都合主義という無思想である。
古人曰く、末が異常に大なれば木は必ず折れ、尾が大なれば自由に振り動かせない、ということである。

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