アジア最強の民主主義国である日本は、もっと自信を持ち、中国の民主化に道徳的な責任感を持つべきである。
以下は、今日の産経新聞、宮家邦彦の定期連載コラムからである。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。
特に国連で生計を立てている人間達は必読。
見出し以外の文中強調は私。
「中国を変える」民主活動家
先週久しぶりで読み応えある中国関連の書物を読んだ。
皆さんは楊建利氏という人物をご存じか。在米中国人「ヤン・チエンリ」。著名な中国人権活動家で、1963年、中国・山東省生まれ。
北京師範大数学系卒業、米国でカリフォルニア大バークレー校数学博士、ハーバード大政治経済学博士号取得。
89年の天安門事件の時に帰国、民主化運動を支援して当局にマークされ、98年から米国で民主活動を本格化させた。
2002年、秘密裏に帰国し中国国内の労働運動を視察して逮捕、スパイ罪・不法入国罪に問われ、懲役5年の実刑判決を受け服役。
07年釈放、国外追放となるが、同年末には米国で民主化運動を再開し、今もハーバード大研究員として議会証言や講演を続けている。
良質の知識人
楊氏が筆者の10歳年下だと知り、ふと2000年から4年弱の外務省・北京在勤時代を思い出した。
当時中国の学界には楊氏のような良質の若いリベラル系共産党員が結構いた。
中には1989年に天安門事件を経験した者も少なくなかった。
中国にも「民主主義や人権をまともに議論できる知識人」がいたのか、と驚いたものだ。
楊翅利氏はあの時代の中国を象徴する知識人の一人なのだ。
楊建利氏は人生の1割近くを中国の監獄で過ごした。
キリスト教信仰に支えられ壮絶な投獄生活を乗り切り、最後は自分を虐待した看守の頼みを受け、彼の娘の在米生活を支援したような男だ。
その楊氏が過去20年間に行った様々な発言を集めたのが、今回ご紹介する「中国を変えようアメリカ議会を動かした証言」なる書籍である。
15日発売予定の同書を筆者は事前に入手して読んだのだが、楊氏の民主主義、人権、天安門事件、服役中の出来事などに関する発言は今の中国では決して聞けない貴重なものだ。
彼は10年以上前、米連邦議会で北京五輪やウイグル問題に関し様々な提言を行ったが、その一つ一つが今も正鵠を射ている。
ご関心ある向きはぜひ本書を読んでみてほしい。
■日本への提言
本書の中で楊氏は「1989年以降、中国共産党の伝統的イデオロギーは破綻し、民族主義と国益が共産主義の理想にとって代わり、社会の共通認識を統合する唯一の手段となったため、日本は便利な標的になった」と述べ、日本に対し提言を行っている。
①中国の拡張主義的、非民主主義的、非文明的政権は日本の安全保障と民主的生活様式にとって不利益である。
②日本は中国の民主化と人権状況の改善を支援することで中国の人々の日本に対する悪感情を解くことができる。
③アジア最強の民主主義国である日本は、もっと自信を持ち、中国の民主化に道徳的な責任感を持つべきである。
④中国の人権、法の支配の状況について日本の注意はあまりにも足りない。日本が従来の対中外交戦略を調整することをお勧めする。
良質の中国知識人の魂の叫びではあるが、その受け止め方は人により異なるだろう。
楊氏は「日本は中国人民に対し相済まないことをしたのだとしても、中国共産党に相済まないことをしたわけでは決してないことを、日本の朝野は理解すべきだ」とも述べているが、仮に楊建利氏のような人物が将来中国を指導する立場に立っても、楊氏の言う「中日間の百年の確執」が真の解消へ向かうには時間かかかるだろう。
それでも楊氏のような良質の中国人が一人でも多く中国に戻り、内政外交を仕切ることは日本を含む国際社会の利益となる。
その意味でも、この「中国を変えよう」と題された書籍は一読に値する良書である。