恥を知る日本なら絶対起きない訴訟だが、リオには弁護士大統領クリントンが後ろについている
東芝を相手取って起こされた米国での巨額訴訟は、技術的根拠に乏しいにもかかわらず、政治力と訴訟社会の論理によって強引に進められた。
弁護士の我利我欲と、弱った企業を逃さない米国の体質が、東芝に1100億円の和解と粉飾決算への道を強いた過程を描く。
TPPという国家的選択の是非をも問い直す論考。
2017-04-10
以下は前章の続きである。
弁護士の我利我欲に呆れたが、それこそ米国人の本性かもしれない。
実際、10年ほどして東芝相手に奇妙な訴訟がテキサス州ビューモントの連邦地裁に起こされた。
東芝のパソコンでいくつもの作業を同時にやるとフロッピーディスクコントローラー(FDC)が故障する可能性がある。
だから賠償しろという訴えだった。
でも不具合が起きたとかのクレームも問い合わせもないと東芝は抗弁した。
しかしクリントンへの大口献金者でもあるウェイン・リオ弁護士は強硬だった。
東芝はパソコンの欠陥を承知で売っている。
1兆円を払えと譲らない。
彼の主張の根拠はNECが「今のFDCに過重負荷をかけると故障する恐れがある」と改良FDCを載せた。
しかし東芝は改良型を出さなかった。
それだけ。
小型機業界につけた因縁と全く同じ手法だった。
恥を知る日本なら絶対起きない訴訟だが、リオには弁護士大統領クリントンが後ろについている。
東芝は結局99年、総額1100億円の和解案を飲んだ。
捻出のため有価証券を売り払い、それでも650億円の赤字を出し、あの粉飾決算が始まった。
米国は弱った獲物は見逃さない。
今回は東芝の子会社ウェスティングハウスが汚い仕掛けをして東芝に今度こそ1兆円を背負いこませた。
阿漕な米国を絵に描いたような顛末だ。
こんな国に下駄を預けるTPPが消えてよかったのかもしれない。
で、何であれほど繁盛した米小型機業界が消滅しかけているのか
戦後、世界市場の90%を支配していた米国の小型機産業は、なぜ壊滅的衰退を遂げたのか。
高山正之の週刊新潮コラムを手がかりに、セスナ、パイパー、ガルフストリームといった名門企業の没落、訴訟社会アメリカの本質、そして産業そのものを破壊する構造を描き出す論考。
2017-04-10
高山正之は戦後の世界で唯一無二のジャーナリストであると私は言及して来た。
週刊新潮の最後には彼の名物コラムがあり、少なくない人たちが、彼のコラムから、つまり最後から読むと言う。
今週号の彼の論文も私の評の正しさを証明している。
東芝を潰した国。
羽田の記者クラブにいたころ、フランク・シナトラが自家用機で飛んできた。
米ガルフストリーム社の小型ジェット機で、機側に俳優の三橋達也が迎えに来ていた。
米国は当時、小型機市場の90%を握り、セスナやパイパー、ビーチエアクラフトなど知られたメーカーがぞろぞろあった。
それから20年、何の縁かロサンゼルスの特派員に出た。
あの近辺には小型機も含め、航空機メーカーや部品メーカーが結構多い。
今はどこが売れ筋かを尋ねてみたら「セスナは生産中止」「パイパーはチャプター11、つまり倒産」「ガルフも潰れたはず」と信じられない返事だった。
中でも悲惨だったのがパイパー社だ。
最盛期には数百人の従業員を抱え、年間5200機を生産していたのが今は従業員45人で生産機数年間7機という。
デハビランドとかショートとか潰れた何社かはカナダの鉄道会社ボンバルディアが買い集め、小型旅客機を作っている。
「倒産企業の寄せ集めだからさてまともに飛ぶかどうか」という返事だった。
その予感は今ごろぴったり的中して、あっちこっちで事故を起こしまくっている。
で、何であれほど繁盛した米小型機業界が消滅しかけているのか。
「それは訴訟さ」と米小型機工業会のロン・スワンダが教えてくれた。
この稿続く。