操縦者の不注意はなぜ製造者の罪に変えられたのか— 訴訟が米国小型機産業を壊滅させた構造 —
操縦者の過失事故が、弁護士と陪審制度によって製造物責任にすり替えられ、米国の小型航空機産業が崩壊していく過程を検証する。安全改良が逆に訴訟リスクを生み、雇用と技術を失わせた実態を描く。
2017-04-10
操縦者の過失事故は、本来メーカーの責任ではない。
だが米国では、弁護士と陪審制度がそれを製造物責任にすり替えた。
安全改良は訴訟リスクを生み、保険料は跳ね上がり、生産は止まった。
その結果、小型機産業は壊滅し、雇用も技術も失われた。
これは偶然ではない。
制度が生んだ必然である。
2017-04-10
以下は前章の続きである。
発端は80年代半ば。
米連邦航空局が小型機操縦士のシートベルトはちゃんとした肩掛けハーネス式にしろと勧告した。
メーカーが従った。
操縦がより安全になりましたと宣伝もした。
しかし軽飛行機だって結構高い。
おいそれと買い替えられないから大方が旧式のままで飛び、飛べば事故も起きる。
例えばアルバカーキのパイパー機事故だ。
タンデムの前席に撮影用カメラを置いて後席で操縦していた操縦者が滑走路上にあった障害物に気づかず、衝突し大けがをした。
操縦者の不注意のはずだが弁護士は旧式シートベルトを問題にした。
「今は安全という以上、旧モデルは不安全だった」「だから大けがをした」と主張した。
陪審員は頷き、パイパー機は懲罰賠償を含め同型機なら20機は買える250万ドルの賠償を命ぜられた。
セスナも同じ。
より安全な改良モデルを出すと「旧モデルはみな安全でなかった」と因縁がついて高額賠償を迫られ、それをカバーする製造物責任保険が1機7万ドルにもなった。
だから生産をやめた。
かくて小型機業界は壊滅し、雇用も技術も失われた。
この稿続く。