無知と不勉強――小泉反原発論を撃つ奈良林直論文

日本国民が読むべき月刊誌の一つであるWiLL四月号に掲載された、北海道大学大学院教授・奈良林直氏の論文を紹介する。小泉純一郎元総理の反原発発言を、エネルギー安全保障、国富流出、比較論の誤謬という観点から徹底的に批判した学術的かつ実証的論考である。

2016-03-16
以下は、先日来、言及している論文である。
実際は日本国民の全てが読むべき月刊誌の中の一つであるWiLLの4月号からである。
題字以外の文中強調は私。
無知、不勉強
小泉(元総理)の反原発発言
奈良林直 北海道大学大学院教授
比較対象が無茶苦茶
『文藝春秋』2016年1月号に掲載された「小泉純一郎独白録」を読んで、愕然としました。
小泉さんの原子力に対する無知、不勉強を自ら白状したような酷い内容です。
「こんな人が日本の総理大臣を務めていたのか」と呆れ果てました。
《今やっと川内原発の二基が再稼働したけど、原発なくても大丈夫なんだ。ドイツはゼロ宣言しても、まだ原発8基ぐらい動いているだろう。日本は宣言せずに、4年半も実質ゼロでやれている(15年11月末時点では、国内43基中2基が営業運転中)》
《大飯3、4号機が定期検査入りして再び原発ゼロになって、「冬が来れば、ゼロが駄目だというのがわかる」と言われたんだ。ところが、寒い冬も暑い夏も停電ないよ。困らないんだ》
現在(2016年2月)は、原油価格の下落やLNG(液化天然ガス)価格の値下がりによって多少は緩和されていますが、原発停止を埋める火力発電所の稼働アップによる化石燃料の輸入増加により、最大で年間3.6兆円の国富が海外に流出しました。
一日約100億円の損失です。
小泉さんは、この事実を国民に一切知らせていません。
1973年、オイルショックの隹の総発電量に占める火力発電の割合は、76%でした。
その後、この反省を踏まえ、原子力発電所を建設するなどして、エネルギーの自給率向上に努めて来た結果、原子力発電が約30%を占め、東日本大震災直前の火力発電の割合は62%にまで低下した。
ところが震災後、火力発電の割合は88%に上っています。
オイルショックの年より増加しているのです。
日本は足元を見られ、ジャパンプレミアムという割高な値段で購人しなければならなくなっていた。
小泉さんは。“やっていけている背景”を国民に伝えていません。
家計が赤宇で苦しんでいるときに、「借金してもやっていけているんだからいいじゃないか」と開き直っているようなものです。
中東情勢の不安定化により、いつまた原油価格が高騰しないとも限りません。
エネルギー安全保障の観点も欠如しています。
燃料費の増加について、小泉さんはこう述べます。
《食事している時に俺に「原発がなかつたら石油、石炭の輸入額が3兆6千億円も増えるから、国富の損失だ」つて、経団連の幹部が言ってきたこレにもあったよ。…》
一体、何を言っているのでしょうか。
比較対象が無茶苦茶です。
食料は貿易自由化や減反といった国の長年にわたる農業政策の結果、生じた構造的な問題であって、その話と原発停止による燃料費の増加、すなわち原発を稼働させていれば生じない損失額とを比較すること自体、おかしな話です。
社長がそれ以来、一切言わなくなったのは、「もう、小泉さんに何を言っても無駄だ」と諦めたからではないでしょうか。
この稿続く

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