52年間止められてきた獣医学部新設 ― 加計問題の本質と岩盤規制
日本では52年間にわたり獣医学部の新設が認められてこなかった。国家戦略特区をめぐる加計学園問題の本質を、岩盤規制と政策論の歪みという視点から検証する。
2017-07-13
10日に発売された月刊誌 Voice(780円)にも、日本国民全員と世界の人たちが読まなければならない論文が掲載されている。
見出し以外の文中強調は私。
王道政策論に回帰せよ。
加計問題から消費税まで、偏向した議論を糺す。
竹中平蔵
目を覆うような政策論議が、国会や一部メディアで行なわれてきた。
総理主導で、国民にオープンな政策論議を行ない、政策の質を高めることが、2001年の中央省庁改革以降、めざされてきたはずである。
しかし、いま政策論の本質から逸脱し、偏向した議論が、政策論議の場で堂々と行なわれている。
以下では、ミクロの構造改革論を歪めた象徴としての加計学園問題、そしてマクロ運営の象徴としての消費税論議を取り上げたい。
加計問題の本質は、霞が関の改革派に対する抵抗勢力の執拗な攻撃である。
消費税問題の本質は、世界で話題になったシムズ理論を、金庫番的立場の人びとが無視し続けていることだ。
加計問題は、国家戦略特区の枠組みのなかで生じたものであり、筆者はこの特区の提唱者であり、また諮問会議の民間メンバーでもある。
またマクロに関して、5月にニューヨークのジャパン・ソサイエティ主催の講演会で、筆者自身、シムズ教授と公開討論を行なってきた。
こうした経験を踏まえ、偏向した論議を糺したいと思う。
国会と一部メディアが、一刻も早く王道の政策論議に回帰することを期待している。
なぜ獣医学部新設か。
海外の投資家と話をするなかで、彼らが一様に驚くことがある。
過去38年間、日本では実質的な意味で医学部が新設されなかったことだ。
医師会など既得権益をもつ利害関係者、いわゆる族議員、そして官僚組織の力。
まさに岩盤規制である。
そうした岩盤に、国家戦略特区という強力な改革ツールによって、ようやく風穴が開いた。
この4月、千葉県成田市で新たな医学部が誕生した。
しかし、さらに強烈な岩盤規制が存在していた。
獣医学部の新設問題である。
日本では、過去52年間も、新たな獣医学部開設が認められてこなかったのである。
この事実を語ると、海外の識者たちはあきれ顔で「ありえない」と口をそろえる。
過去50年間で、日本の人口は3割増加し、実質GDPは4倍以上になった。
さらにライフサイエンス分野では、獣医学部の在り方そのものに、大きな変化が突き付けられている。
SARSや鳥インフルエンザのように、人と動物の境界に位置する新たな感染症が、世界を脅かしている。
近年の創薬プロセスでは、実験動物を用いた前臨床研究など、獣医師の知見が不可欠になっている。
再生医療分野でも、中大型動物の開発と管理を担う人材不足が、深刻な問題として顕在化している。
こうした構造変化を反映し、獣医師の活動領域も変化してきた。
この10年間で、製薬会社などに勤務する獣医師は約5割増加した。
獣医学部新卒者のうち、企業就職を選ぶ者の数も約6割増加している。
にもかかわらず、50年間新設が認められず、研究者間の競争も進まず、新卒者数は毎年1000人規模に固定されたままである。
この岩盤規制をどう突破するのか。
これこそが、王道の政策論である。