帰還船に乗れないわけではない──計算された自己演出の構図
帰還船に「乗れない」のではなく「乗らない」選択を周到に用意した大江健三郎。反応を計算し尽くした私生活の設定と、善人像を演じ切る手法の核心を描く。
2016-04-10
朝日新聞に騙された日本人妻。
それに彼だって帰還船に乗れないわけではない。
朝鮮人女性と結婚して、日本人妻ならぬ日本人亭主になればいい。
現に三千人の日本人女性が朝日新聞に騙されて、朝鮮人の夫と帰還船に乗って地獄に行っている。
大江は、こう書けばそういう反応が出るのを計算していた。
だから彼が「朝鮮人でないこと」を悔やむテレビ番組を見たのが「結婚式の夜」だったのだ。
未婚であれば、朝鮮人女性を娶って、すぐにも朝鮮に行ける。
それでは困るから、朝鮮人女性とは結婚できない状況を用意した。
「残念ながら日本人女と結婚しちゃったから」と言い逃れができるからだ。
こんなところが、いかにも計算づくでいい人を演じきる彼らしい。
その彼の作品に『沖縄ノート』がある。
この稿続く。