少し考えれば疑わしい話が「史実」になった日――百人斬り報道と教育現場

南京事件の「百人斬り」は、当時の新聞社自身が虚構と認めた戦意高揚記事だった。それが本多勝一の著作と朝日報道を経て、教科書・教師用指導書、さらには平和学習として事実化された構造を検証する。

2016-05-10

以下は前章の続きである。
文中強調は私。

三省堂発行の高校日本史の教師用指導書(平成元年三月初版)は、「追加史料南京大虐殺の証言」として、本多勝一の『中国の旅』から、機関銃による住民十万人殺害などを語った姜根福の証言を引用している。
【解説】欄では、「(旧日本軍の)二人の将校の閧で、どちらが先に中国人を百人殺せるかという殺人競争」と書き、いわゆる百人斬りを史実として紹介した。

本多は姜が語った話として、(毎日新聞の前身)が報じた記事を基にしている。
しかし、東京日日で二人の少尉の撮影に携わった元カメラマン自身が、「あり得ない話だ」と否定している。

毎日新聞自身も、元年に発行した『昭和史全記録』で、「この記事の百人斬りは事実無根だった」と、自社の過去の報道を否定している。
すなわち、戦意高揚のための創作記事だったことが、すでに通説となっている。

ところが、『中国の旅』の影響によって、この虚構は、学校の教室では歴史的事実として扱われてきた。

最近では、平成二十四年に富山県で行われた日教組の教育研究全国集会において、百人斬りを題材にした、いわゆる平和学習の教育実践が報告されている。

「日本は中国に攻め入り、たくさんの中国人を殺しました」
「戦争になったら、相手国の人をたくさん殺せば殺すほど、勲章がもらえて、たたえられるんです」

百人斬りの新聞記事や写真を用いた授業を受けた生徒たちは、「中国人は日本からされたことを許せないと思う」「つらい過去と向き合い、立ち向かうことが償いだと思う」などの感想を述べていた。

朝日新聞が平成二十六年に設置した、慰安婦報道検証のための第三者委員会では、慰安婦狩りを偽証した吉田清治に関する報道と類似したケースとして、百人斬りが取り上げられている。

「戦争中の兵士が、勝手に行動できるのか。
『審判』のいないゲームが可能なのか。
少し考えれば疑わしい話なのに、そのまま報道され、相当広く信じられてしまった」

朝日報道を事実と認識して引きずられ、ゆがんだ歴史観を教えた教師も、教えられた生徒も、被害者だと言えないだろうか。
(敬称略)

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